第5話 人型モンスター少女・ミラ
放課後の校舎裏は、夕焼けの光が差し込んで静かだった。
ユウは壁にもたれかかり、深いため息をついた。
「……今日も疲れた……」
レンジに怒鳴られ、ゲートが開き、モンスターに追われ、転んで、叫んで、泣いて、そしてなぜか生き残った。
いつものことだが、慣れる気配はまったくない。
足元を見ると、昨日の焦げ跡がまだ薄く残っていた。
丸いような、丸くないような、よく分からない形。
レンジの剣が地面を焦がしただけのはずなのに、どこか妙に複雑に見える。
(……まぁ、どうでもいいか……)
ユウは立ち上がろうとした。
その時だった。
「あなた、また逃げてたの?」
背後から声がして、ユウは飛び上がった。
「ひぃっ!? だ、誰!?」
振り返ると、黒いフードをかぶった少女が立っていた。
白い肌に淡い青の瞳。
人間離れした雰囲気をまとっている。
「……え? え? 誰……?」
少女はユウをじっと見つめた。
その視線は、まるで何かを“探している”ようだった。
「あなた、変な人間ね」
「ひどくない!?」
少女は首をかしげる。
「だって……普通じゃないもの」
「普通だよ!? 俺は無能だよ!? Eランクだよ!? 普通以下だよ!?」
少女はユウの胸元に手を伸ばし、そっと触れた。
ユウはビクッと肩を跳ねさせる。
「な、なに……?」
「……動きが変」
「動き……?」
少女はユウの言葉を無視して、地面に目を向けた。
そこには、昨日レンジがつけた焦げ跡が薄く残っている。
少女はしゃがみ込み、指でなぞった。
「……これ、どうしたの?」
「え? あ、昨日レンジが剣で……」
少女はその言葉を聞いた瞬間、わずかに目を細めた。
だがすぐに表情を戻す。
「ふぅん」
「え、なに? なんかあるの?」
「別に」
少女は立ち上がった。
その動きは軽く、音もなく、影のようだった。
「あなた、名前は?」
「え? あ、天野ユウ……」
「ユウ……」
少女はその名前を口の中で転がすように呟いた。
「私はミラ。……また会うと思う」
「いや、会わなくていいよ!? 俺、平和に生きたい!!」
ミラはくすっと笑った。
その笑顔は、どこか人間らしくない。
「平和……ね。あなたには似合わない言葉」
「ひどくない!?」
ミラはユウの横をすり抜け、校舎の影に消えていった。
まるで最初から存在しなかったかのように。
ユウはしばらくその場に立ち尽くした。
「……なんだったんだろ……あの子……」
その時、背後から声がした。
「ユウくん!」
ミナが駆け寄ってくる。
「探したよ。帰ろ?」
「あ、うん……」
ミナはユウの顔を見て、首をかしげた。
「どうしたの? なんか変な顔してるよ?」
「変な子に会った……」
「変な子?」
「うん……なんか、俺の運が変とか……動きがどうとか……」
ミナは少しだけ目を見開いた。
「……ふぅん」
「なにその反応!? 怖いんだけど!!」
ミナは笑ってごまかした。
「大丈夫だよユウくん。変な人なんていっぱいいるよ」
「慰めになってないよ……」
二人は並んで歩き出した。




