第24話 誰も知らない救世主
世界が震えた。
空に開いた巨大な“円”が、ゆっくりと閉じ始める。
影の主──“円環の軍勢”の王は、
ユウの胸元から浮かび上がった光を見つめながら、
苦しげに声を漏らした。
「……核……拒絶……?
なぜ……我が核が……人間に……」
ユウは泣きながら叫んだ。
「知らないよ!!
俺、返したいよ!!
返し方が分からないだけだよ!!
説明してよ!! なんで説明してくれないの!?
なんでぇぇぇ!!」
影の主は、
その叫びに反応するように揺らいだ。
「……核の……意思……
“拒絶”……?」
ミナがユウの手を握る。
「ユウくん……大丈夫。
あなたはあなたのままでいいんだよ」
ユウは涙を拭いながら言った。
「……俺、帰りたい……」
その瞬間──
ユウの胸元の光が、
ふわりと揺れ、
影の主へ向かって飛んだ。
影の主は手を伸ばす。
「……戻るのか……?」
だが光は、
影の主の手前で止まり──
パリンッ!!
まるでガラスが砕けるように、
細かい光の粒になって消えた。
影の主は絶叫した。
「……な……ぜ……!?
核が……消滅……!?
我が……中心が……!」
ユウは泣きながら叫んだ。
「知らないよ!! 俺じゃないよ!!
俺、ただ逃げただけだよ!!」
影の主は崩れ落ちるように揺らぎ、
空の“円”へ吸い込まれていった。
「……核なき円環は……閉じる……
我は……戻れぬ……
世界は……お前の……」
最後の言葉は、
風に消えた。
空の“円”は完全に閉じ、
世界は静寂を取り戻した。
校庭。
ミナがユウを抱きしめる。
「ユウくん……生きてる……よかった……」
ユウは震えながら言った。
「……俺、なんで生きてるの……?
なんで世界が助かったの……?
俺、何もしてないよ……?」
ミナは微笑んだ。
「ううん……ユウくんがいたからだよ」
「俺じゃないよ!!
俺、逃げただけだよ!!
転んだだけだよ!!
泣いただけだよ!!」
ミナは首を振る。
「それでも……ユウくんがいたから、世界は救われたんだよ」
ユウは顔を赤くした。
「……そんなわけ……ないよ……」
神崎教官が近づいてくる。
「天野……よくやった」
ユウは叫んだ。
「やってないよ!! 俺、何もしてないよ!!」
神崎は苦笑した。
「……そうかもしれん。
だが……結果として世界は救われた。
それで十分だ」
ユウは地面に座り込んだ。
「……俺、帰りたい……」
ミナが手を差し出す。
「帰ろう、ユウくん」
ユウはその手を握った。
その日の夕焼けは、
どこか優しかった。
ユウは知らない。
世界を救ったのが自分だということを。
ミナだけが知っている。
ユウの中にあった“核”が、
最後の瞬間に“拒絶”を選んだことを。
ユウが逃げ続けたからこそ、
世界は救われたことを。
そして──
ユウが“世界の中心”だったことを。
でもそれを、
ミナは決して口にしない。
ユウはユウのままでいいから。
ミナはそっと呟いた。
「……ありがとう、ユウくん。
誰も知らない……世界の救世主」
ユウは聞こえていない。
ただ、
「帰ったらアイス食べたい……」
と呟いていた。
ミナは笑った。
「うん。帰ったら一緒に食べよう」
夕日が二人を照らす。
世界は平和になった。
ユウは相変わらず無能。
でも──
ミナだけは知っている。
世界を救ったのは、この男だ。




