第19話 兄、再び。そしてまた逃げる
翌日の放課後。
ユウは校舎裏のベンチで、ミナと一緒におにぎりを食べていた。
「……今日は何も起きない……今日は平和……
俺、今日こそ平和に帰りたい……」
ミナが笑う。
「ユウくん、昨日も言ってたよ」
「言うよ!! 俺の人生、毎日が命がけなんだよ!!
平和を祈るくらい許して!!」
ミナはくすっと笑い、ユウの頭を撫でた。
「大丈夫。私がいるから」
「ミナがいなかったら俺、外出できないよ……」
「うん」
即答だった。
「そこは否定してよ!!」
そんなやり取りをしていると──
空気が、
ひゅう……と冷たくなった。
ユウは即座に叫んだ。
「やだやだやだ!! この空気知ってる!!
絶対なんか来るやつ!!」
ミナが立ち上がる。
「ユウくん、後ろに!」
ユウが振り返ると──
校舎の屋根の上に、
黒い影が立っていた。
長い髪、鋭い目、獣の気配。
ミラの兄、ヴァルドだった。
ユウは絶叫した。
「なんでぇぇぇ!! なんで屋根の上から来るの!?
普通に歩いてきてよ!!」
ヴァルドは無言で飛び降り、
ユウの目の前に着地した。
ドンッ!!
ユウは尻もちをついた。
「ひぃぃぃ!! 怖い!! 怖いよ!!」
ヴァルドはユウを見下ろし、低く言った。
「……やはり、お前だ」
「なにが!? 俺、何もしてないよ!!
昨日も今日も一昨日も、ずっと逃げてるだけだよ!!」
ミナがユウの前に立つ。
「ユウくんには触らせない!!」
ヴァルドはミナを一瞥し、すぐにユウへ視線を戻した。
「……“流れ”が乱れている。
お前の周囲だけ……世界が歪む」
ユウは泣きながら叫んだ。
「歪んでるのは俺の人生だよ!!
なんで俺の周りだけ自然現象が暴れるの!?
嫌われてるの!? 世界に!? なんでぇぇ!!」
ヴァルドは一歩前に出る。
「……お前は危険だ。
このまま放置すれば……“円環”が動き出す」
ミナが叫ぶ。
「円環ってなに!? どういう意味!?」
ヴァルドは答えない。
ただ、ユウに手を伸ばした。
「……排除する」
ユウは絶叫した。
「やだぁぁぁ!! 排除されたくない!!
俺、無害だよ!! 弱いよ!! すぐ逃げるよ!!」
ミナが光のバリアを展開する。
「ユウくん、逃げて!!」
「逃げてるよ!! ずっと逃げてるよ!!」
ユウは全力で走り出した。
ヴァルドが追う。
ミナが追う。
校舎裏は大混乱だった。
ユウは校庭へ飛び出し、
そのまま体育倉庫の裏へ逃げ込んだ。
「はぁ……はぁ……死ぬ……死ぬ……」
だが──
体育倉庫の裏に置かれていた“古い鉄製の輪っか”につまずいた。
「うわああああ!!」
盛大に転ぶ。
その拍子に、
輪っかが転がり、
倉庫の壁に立てかけられていた“古い鉄板”に当たった。
ガンッ!!
鉄板が倒れ、
地面に埋まっていた“丸い石板”が露出した。
ミナが駆け寄る。
「ユウくん、大丈夫!?」
「大丈夫じゃないよ!! 転んだよ!!」
ヴァルドが歩いてくる。
「……逃げても無駄だ」
ユウは泣きながら叫んだ。
「逃げるのが俺の唯一のスキルなんだよ!!
逃げさせてよ!!」
ヴァルドがユウに手を伸ばした瞬間──
地面の“丸い石板”が、
ほんの一瞬だけ、
淡く光った。
ヴァルドの動きが止まる。
「……これは……」
ミナが驚く。
「え……今、光った……?」
ユウは叫んだ。
「光ってないよ!! 気のせいだよ!!
俺、何もしてないよ!!」
ヴァルドは石板を見つめ、低く呟いた。
「……“円環の核”……?
なぜここに……?」
ユウは震えた。
「核ってなに!? 俺、核とか怖いよ!!
やだよ!! 巻き込まないで!!」
ヴァルドはユウを見つめ、
ほんの一瞬だけ、
迷うような表情を見せた。
「……お前は……本当に……」
ミナが叫ぶ。
「ユウくんに近づかないで!!」
ヴァルドは舌打ちし、
影のように消えた。
「……今日は引く」
静寂。
ユウは地面に倒れ込んだ。
「……死ぬかと思った……」
ミナがユウの手を握る。
「ユウくん……大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ……
なんで俺の周りだけ石板が光るの……?」
ミナは優しく微笑んだ。
「ユウくんが……生きてるからだよ」
ユウは顔を覆った。
「……俺、帰りたい……」
ミナはそっとユウの背中を撫でた。
「帰ろう。今日はもう十分頑張ったよ」




