第17話 最弱、最前線へ
巨大ゲートが出現した翌日。
ユウは教室の隅で、机に突っ伏していた。
「……俺、もう学校来るだけで命がけなんだけど……」
ミナが心配そうに覗き込む。
「ユウくん、大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ……昨日、巨大ゲートが学校に来たんだよ……?
なんで俺の学校だけ狙われてるの……?」
ミナは優しく微笑んだ。
「狙われてるんじゃなくて……たまたまだよ」
「たまたまで巨大ゲート来る!? そんな“たまたま”いらないよ!!」
そんなやり取りをしていると、校内放送が鳴った。
『1年A組、天野ユウ。至急、教官室へ。繰り返します──』
ユウは机に顔を押し付けたまま叫んだ。
「なんでぇぇぇぇ!! 俺、呼ばれたくないよぉぉ!!」
ミナが背中をさする。
「大丈夫だよ。きっと大したことじゃないよ」
「大したことじゃないなら呼ばれないよ!!」
教官室。
神崎教官が腕を組んで待っていた。
「天野、来たか」
「来たくなかったよ!!」
神崎は資料を机に置き、真剣な顔で言った。
「……天野。お前、今日の“ゲート調査班”に同行しろ」
ユウは絶叫した。
「なんでぇぇぇぇ!! 俺、戦えないよ!! 逃げるしかできないよ!!」
「だからだ」
「だから!? なんで“逃げるしかできない”から同行なの!? 意味わかんないよ!!」
神崎は淡々と続ける。
「昨日の巨大ゲート……お前の周囲だけ“流れ”が乱れていた」
「流れってなに!? 俺、川じゃないよ!!」
「お前が近づくと、ゲートの反応が弱まった」
「弱まった!? なんで!? 俺、何もしてないよ!!」
神崎は資料を見せた。
そこには、古い装置の図面のようなものが描かれている。
丸いような、丸くないような模様。
どこかで見たような形。
ユウは気づかない。
ミナも気づかない。
神崎も「読めん」と言って閉じた。
「とにかく、お前は“ゲートに近づくと安全になる”可能性がある」
「そんな可能性いらないよ!!」
ミナがユウの手を握る。
「ユウくん、私も一緒に行くから」
「ミナぁぁぁ……」
神崎は続ける。
「安心しろ。お前は前に出るな。
ただ“逃げながら近くにいる”だけでいい」
「それいつもと変わらないよ!!」
ゲート調査地点。
街外れの廃工場。
ユウは震えながら言った。
「なんで廃工場なの……? 絶対なんか出るじゃん……
ホラー映画のロケ地じゃん……」
ミナが背中をさする。
「大丈夫だよ。私が守るから」
「ミナがいなかったら俺、外出できないよ……」
「うん」
即答だった。
「そこは否定してよ!!」
神崎が手を上げる。
「よし、調査を開始する。
天野は……その辺にいろ」
「その辺ってどこ!? 曖昧すぎるよ!!」
ユウは仕方なく、廃工場の壁際に立った。
その時だった。
足元の“古い鉄のパイプ”につまずいた。
「うわああああ!!」
盛大に転ぶ。
その拍子に、
パイプが転がり、
壁に立てかけられていた“古い制御盤”に当たった。
カチッ。
制御盤が勝手に起動した。
ミナが驚く。
「……ユウくん、今の……」
神崎が制御盤を確認する。
「……これは……ゲート安定化装置の旧型……?
なぜこんな場所に……?」
ユウは泣きながら叫んだ。
「俺じゃないよ!! 転んだだけだよ!!」
その瞬間。
廃工場の奥で、
ゲートがゆらりと揺れた。
影のような霧が漏れ出す。
ミナが叫ぶ。
「ユウくん、逃げて!!」
「逃げてるよ!! ずっと逃げてるよ!!」
ユウが走ると、
なぜかゲートの揺れが弱まる。
神崎が呟く。
「……やはり……天野の周囲だけ……流れが乱れる……」
ミナも驚く。
「ユウくん……近づくとゲートが弱くなる……」
ユウは泣きながら叫んだ。
「なんでぇぇぇ!! 俺、何もしてないよ!!
なんで俺の周りだけ自然現象が暴れるの!?
嫌われてるの!? 世界に!? なんでぇぇ!!」
影の霧は、
ユウが近づくたびに形を崩し、
やがてゲートの中へ吸い込まれるように消えた。
静寂。
ミナがユウの肩に手を置く。
「ユウくん……すごいよ」
「すごくないよ!! 転んだだけだよ!!」
神崎は制御盤を見つめながら呟いた。
「……“円環の軍勢”……
まさか……本当に……」
ユウは聞こえていない。
ただ泣きながら言った。
「……俺、帰りたい……」
ミナは優しく微笑んだ。
「帰ろう。今日はもう十分頑張ったよ」




