第15話 影の再襲撃、そしてまた逃げる
夕方の帰り道。
ユウは校門を出た瞬間、空を見上げて深いため息をついた。
「……今日は何も起きなかった……奇跡だ……」
ミナが隣で笑う。
「ユウくん、今日は平和だったね」
「うん……このまま家に着くまで何も起きないで……」
そう言った瞬間だった。
風が止まり、影が伸びた。
ユウは即座に叫んだ。
「やだやだやだ!! 影は嫌だ!! 影は俺を嫌ってる!!」
ミナがユウの腕を掴む。
「ユウくん、落ち着いて!」
「落ち着けるわけないよ!!」
その時──
街灯の下の影が、
ゆらりと揺れた。
影の中から、
黒いコートの男が現れる。
「……また会ったな」
シェイドだった。
ユウは絶叫した。
「なんでぇぇぇぇ!! なんで影から出てくるの!? 普通に歩いてきてよ!!」
シェイドは淡々と言った。
「……お前の“流れ”を確認しに来た」
「流れってなに!? 俺、川じゃないよ!!」
ミナが前に出る。
「ユウくんには触らせない!!」
シェイドはミナを一瞥し、
すぐにユウへ視線を戻した。
「……やはり、理解できん」
「理解できないってなに!? 俺そんなに変!? 変かもしれないけど!!」
シェイドは影を操り、
ユウの足元へ伸ばす。
ユウは反射的に後ろへ飛び退いた。
その瞬間──
影が、
ふっと形を崩した。
まるでユウを避けるように。
シェイドは眉をひそめた。
「……まただ」
ミナが叫ぶ。
「ユウくん、逃げて!!」
「逃げてるよ!! ずっと逃げてるよ!!」
ユウは全力で走り出した。
シェイドの影が追う。
だが──
ユウが走るたびに、
影はなぜか形を乱し、
狙いが外れる。
街灯の光が揺れ、
影が伸びたり縮んだりする。
ユウは泣きながら叫んだ。
「なんで影が俺を避けるのぉぉぉ!!
嫌われてるの!? 影に嫌われてるの!? なんでぇぇ!!」
ミナが後ろから光魔法を放つ。
「《ライトショット》!!」
光が影を弾き、
シェイドが一歩下がる。
「……厄介だな」
ユウは角を曲がり、
公園の遊具の間に逃げ込んだ。
その拍子に、
足元の“古いマンホールの蓋”につまずいた。
「うわああああ!!」
盛大に転ぶ。
マンホールの蓋がガコンッと外れ、
中から冷たい風が吹き上がる。
シェイドの影がその風に触れた瞬間──
影が一瞬だけ揺らぎ、
形を保てなくなった。
シェイドは低く呟いた。
「……またか。
お前の周囲だけ……“流れ”が乱れる」
ユウは泣きながら叫んだ。
「乱れてるのは俺の人生だよ!!」
ミナがユウの前に立つ。
「ユウくんは渡さない!!」
シェイドはしばらく二人を見つめ、
やがて影に溶けるように消えた。
「……今日は引く」
静寂。
ユウは地面に倒れ込んだ。
「……死ぬかと思った……」
ミナが駆け寄る。
「ユウくん、大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ……影に嫌われてるんだよ……」
ミナは優しく微笑んだ。
「嫌われてるんじゃなくて……
ユウくんは、なんか……特別なんだよ」
「特別じゃないよ!! 無能だよ!!」
ミナはユウの手を握った。
「でも……ユウくんが生きてると、私は嬉しいよ」
ユウは顔を赤くした。
「……ありがとう……」
その時。
マンホールの蓋の裏側に刻まれた、
丸いような、丸くないような模様が、
夕日に照らされてほんの一瞬だけ光った。
誰も気づかない。
ユウも、ミナも、シェイドも。




