第13話 ミラの葛藤、そしてまた逃げる
放課後の校舎裏。
ユウはベンチに座り、空を見上げていた。
「……今日こそ平和であってほしい……」
ミナが隣に座る。
「ユウくん、今日は訓練ないから安心だよ」
「ほんとに? ほんとに何も起きない? ゲート開かない? モンスター来ない?」
「来ないよ。たぶん」
「たぶんって言わないで!!」
ミナが笑ったその時──
風がひゅうっと吹き、影が揺れた。
ユウはビクッとした。
「ひぃっ!? なに!? 影!? 影は嫌だよ!!」
ミナが首をかしげる。
「影じゃないよ。あれ……」
木の陰から、ミラが現れた。
「……ユウ」
「うわぁぁぁぁ!! ミラ!? 心臓止まるかと思った!!」
ミラはユウの前に立ち、じっと見つめた。
「……大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ!! 毎日命の危機だよ!!」
ミラは小さく息をついた。
「……ごめん。私のせいで……兄が来た」
ユウは震えた。
「そうだよ!! なんで俺狙われてるの!? 俺、何もしてないよ!!」
ミラは目を伏せた。
「……あなたは……“流れ”が変」
「流れってなに!? 俺、川じゃないよ!!」
ミナがミラに近づく。
「ミラちゃん……ユウくんの“流れ”って、どういう意味?」
ミラは少しだけ考えるように空を見上げた。
「……うまく言えない。でも……あなたの周りだけ、風が違う」
ユウは叫んだ。
「風!? 俺、風に嫌われてるの!? 影の次は風!? 自然現象に嫌われてるの!? なんでぇぇぇ!!」
ミラは首を振った。
「嫌われてるんじゃない。……守られてる」
「守られてる!? 誰に!? なんで!? 俺そんな価値ないよ!!」
ミラは答えない。
ただ、ユウの胸元にそっと手を伸ばした。
「……あなたの“中心”が……揺れてる」
「中心!? 俺、そんな大層なもの持ってないよ!!」
ミナがユウの腕を掴む。
「ユウくん、落ち着いて」
「落ち着けるわけないよ!!」
ミラは静かに言った。
「……兄は、あなたを危険だと思ってる」
ユウは絶叫した。
「なんでぇぇぇぇぇぇ!! 俺、無害だよ!! 弱いよ!! すぐ逃げるよ!!」
ミラは少しだけ微笑んだ。
「……だから、守りたい」
ユウは固まった。
「え……?」
ミラは続ける。
「あなたは……弱い。でも……生きてる。
それが……すごいこと」
ミナがミラを睨む。
「ミラちゃん……ユウくんは私が守るの」
ミラはミナを見返す。
「……あなたも、強い。でも……足りない」
「足りないってなに!? 私、頑張ってるよ!!」
ミラは首を振った。
「違う。あなたは……優しすぎる」
ミナは言葉に詰まった。
ユウは二人の間でオロオロする。
「ちょ、ちょっと待って!! なんで急に修羅場みたいになってるの!?
俺、そんな価値ないよ!? 争わないで!!」
ミラはユウの手をそっと取った。
「……ユウ。あなたは……私が守る」
ミナがユウの反対の手を掴む。
「ユウくんは……私が守るの」
ユウは叫んだ。
「やめてぇぇぇぇ!! 俺、そんなに守られる価値ないよ!!」
その時だった。
校庭の隅に置かれた“古い石碑”が、
夕日に照らされて、
ほんの一瞬だけ、
淡く光った。
誰も気づかない。
ミラも、ミナも、ユウも。
ただの夕日の反射。
ただの石碑。
ただの風。
それ以上でも、それ以下でもない。
ミラはユウの手を離し、静かに言った。
「……ユウ。あなたは……まだ死なない」
「なんでそんな怖いこと言うの!?」
ミラは答えず、影の中に消えた。
ミナはユウの手を握り直す。
「ユウくん……大丈夫だからね」
ユウは泣きそうな顔で言った。
「……俺、なんで生きてるんだろ……」
ミナは優しく微笑んだ。
「ユウくんが……生きようとしてるからだよ」




