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死んでしまった皆さんのために、デスゲームを開始します!

作者: 蔵樹りん

「皆さん、静粛に」


 その場に集められていた多くの魂たちは一体何事かとざわついていたが、突然降って湧いた声を耳にして口を閉ざし、発言の主を探して体の向きを変える。

 皆が視線を向けた先には、いつの間にか教卓のようなものがしつらえてあり、その向こう側には白い衣服に身を包む長い黒髪の男が立っていた。顔立ちも整っており、優男といった風情である。

 老若男女の姿を持つ魂たちに注目された男は、にこやかに笑いながら全員を見回した後、ゆっくりと口を開く。これ以上ないほどの善意を顔に滲ませて。


「今からゲームを始めます。私は司会と進行を務めるゲームマスターです」

「ゲーム?」

「ええ、まずはこれを受け取ってください」


 魂たちの間をドローンが飛び回り、全員にそれぞれ一枚のカードを渡した。

 一体何に使うのかと、魂たちは受け取ったカードをしげしげと見つめている。

 ゲームマスターは皆の反応に自分がわくわくしていることを自覚したが、表に出さないよう努めた。


「皆さんはデスゲームをご存じですね? それと同じようなものです。敗北した者は残念ながらあの世に行くことになりますが、ゲームに勝ち残った者は、なんともう一度人の世に生まれて人生を楽しむことができます」

「……え?」


 想像もしなかった景品に、魂たちはどよめいた。その反響を見て、やはりこのゲームを開催して良かったと内心喜ぶゲームマスター。


「まず最初にいくつかルールを説明しましょう。特に一番大事なものから。これをすると即座に失格になって二度と生まれることが出来なくなりますから、注意してくださいね」

「な、何をしてしまったら失格になるのか、早く教えてください!」


 真剣に耳を傾ける魂たちに、ゲームマスターは満足げな笑みを浮かべつつ言葉を続ける。


「今、皆さんがそれぞれ手に持っているカード、それを破ってしまうことです」


 全員が、即座に手の中のカードをビリビリと破いた。


「いやいや何をやっているのですか!? 失格になると言ったでしょう!!」


 さきほどまでの落ち着きはどこへやら、予想もしなかった魂たちの行動に驚き目をく黒髪ロングヘアーの美男子。

 悲鳴をあげるゲームマスターを意に介さず、魂たちはそっぽを向いた。ごまかすように口笛を吹く者すらいる。


「ああ、もう……せっかく斬新なゲームを考えたというのに……」


 このままでは全員失格でゲームそのものが終わってしまう。しかしもう無事なカードは一枚もない。

 ゲームマスターは急遽予定を変更し、簡単なもので決着をつけさせることにした。


「仕方ありません。ではジャンケンで決めることにしましょう」


「「「「「最初はグー! 最初はグー! 最初はグー! 最初はグー! 最初はグー! 最初は」」」」」


「いつまでグーを出し合っているのですか!? それでは永遠に決着がつかないではないですか!!」


 教卓をバンバン叩きながら糾弾するゲームマスターに対し、やはり魂たちはそっぽを向いた。悪びれる様子が全くない。

 しばらく興奮していた男だったが、やがて呼吸も落ち着いてきた。

 ゲームマスターは問題児を多く抱えるクラス担任のようにため息混じりで首を振り、もはや投げやりになって最後の方策を口にした。


「やむを得ません。ではあなたたちで勝者を決めてください。話し合いでも構いませんし、もちろん凄惨な殴り合いだって許可します。必要とあらば武器の用意だってやぶさかではありません……!」


 そう、最初からこうすべきだったのです。だってこれはデスゲームなのだから!




「あなたが勝者にふさわしいです」

「キミが生まれるのがいいんじゃないかな」

「いやいや、あなたこそ」


「なぜみなさん譲り合っているのですか!? そこは他の者を押しのけてでも我こそが、と言うべきでしょう!!」


 声も枯れんばかりに張り上げられるゲームマスターの叱責に、またも魂たちはそっぽを向いた。

 ゲームマスターはぜえぜえと息を切らす。

 いつの間にか流れていた汗をハンカチでぬぐって落ち着きを取り戻し……。

 ここに至ってようやく、ゲームマスターは魂たちとの温度差に気づいた。


「……ひょっとして、もう一度生まれたいと願う者は一人もいないのですか?」


 その言葉に女の姿を持つ魂が、まっすぐにゲームマスターを見つめて叫ぶ。


「ええ、もうあんな世界には戻りたくありません。どうせまたつらい人生を送るに決まっています!」


 代表して答えた魂の悲痛な訴えに、残りの皆がうんうんと頷く。


「な、なるほど……それは認識違いでした……」


 最近、人の世では生きづらさを感じる人間が多くなっていたのである。

 ゲームマスターは世情に疎いため、潮流の変化にまったく気づいていなかった。

 もともと、不遇な人生を送って死んだ人間に対する恩情として用意されたゲーム。

 しかしもう一度生まれたいと願う魂がいない以上、もはや存在意義がなくなってしまった。


 じっと自分を見つめてくる魂たちの姿に、ゲームマスターは気まずそうに頭をかく。


「困りましたね……では、もういっそのこと、ここで過ごしますか?」

「え?」

「さまよえる魂として、再び生まれることも出来ず、天国や地獄に行くことも出来ませんが……娯楽や食事くらいは楽しめますよ」

「「「「「ずっとあなたについて行きます!」」」」」


 ゲームマスターは意外と話が分かる男だった。

 行き場のない魂たちは、この場所で永遠の安息を得たのであった。

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