第6話 リリア視点 ― 「触れた温度に、心が揺れる」
ユウト様と手を離したくない——
そんな気持ちが自分の中にあるなんて、つい最近まで知らなかった。
魔法の練習を始めてから、私はいつも不安で、怖くて。
でも、ユウト様が隣にいるだけで、胸の奥の震えが少しずつ溶けていく。
「リリア、もう一度やってみる?」
優しい声が耳に触れるだけで、身体がふわっと軽くなる。
「……はい。できるようになりたいので」
「じゃあ、さっきと同じように魔法陣に魔力を流してみよう」
ユウト様は少し距離をとるように下がった。
それは、わたしが“自分の力でやれるか”を確かめるため。
頭では分かっているのに……離れた瞬間、胸がきゅっと締めつけられた。
(……だめ、甘えてばかりじゃ……)
私は深く息を吸った。
息を吐きながら、手のひらに魔力を集めようとする。
けれど。
「……う、うまく……いかない……」
魔力が、指からこぼれ落ちるみたいに散っていく。
焦れば焦るほど、魔力は私の手から逃げていった。
「リリア」
ふわっと肩に手が添えられた。
その瞬間——魔力が一気に静まる。
「ひとりで頑張ろうとしてたから、逆に緊張しちゃったんだと思う」
「……ごめんなさい。私、情けないです……こんなことで……」
「情けなくないよ。リリアはちゃんと前に進んでる」
ユウト様の手が、そっと背中に滑るように触れた。
優しい温度が背中いっぱいに広がる。
「……ユウト様が触れると、魔力が落ち着くんです……」
「それは、俺も同じだよ。リリアに触れると、不思議と魔力が澄んでいく」
「え……?」
どくん、と胸が高鳴った。
心臓の音が、肌のすぐ下で跳ねている。
私だけがこう感じているのだと思っていた。
でも……ユウト様も、同じ……?
(……そんなの……嬉しすぎます……)
「じゃあ、今度は一緒にやってみよう」
ユウト様は私の手を取って、正面に立つ。
指が絡まる度、胸の奥がじんわり熱くなる。
「魔力を流すとき、俺の流れを感じて。それに寄り添うみたいに、ゆっくり繋げて」
「……寄り添う……」
「そう。焦らなくていい」
ユウト様の魔力が、手のひらから私の中に入ってくる。
穏やかで、優しくて、触れたら壊れてしまうような光。
私はそれをそっと包むように自分の魔力を重ねた。
「……っ、ユウト様……これ……」
「うん、すごく綺麗に流れてるよ。リリアの魔力、柔らかいな」
「や、柔らかい……?」
「触れると落ち着く。安心する」
その言葉に、息が止まりそうになった。
「……そんな、近い距離で言われたら……意識しちゃいます……」
視線が合う。
ユウト様の青い瞳が、私を優しく包み込む。
「意識してくれていい。俺も……してるから」
「っ……!」
魔法陣がぱぁっと光を放った。
まるで、私の胸の高鳴りに呼応するように。
「リリア、成功だよ。今日、一番綺麗な光だ」
「……ユウト様と、一緒だったから……」
声が震えていた。
でも、不思議と恥ずかしくなかった。
だって本当のことだから。
「今日はここまでにしようか」
「はい……」
「リリア」
「はい?」
ユウト様は一歩私に近づいた。
その距離は反則だと思うほど近くて、胸がまた跳ね上がる。
「……明日も練習、俺と一緒にやろう」
「……はい。わたし、ユウト様となら……何度でも」
そう言うと、ユウト様はとても優しく微笑んだ。
胸の奥が、魔法よりあったかくて甘い光で満たされていく。




