第1話 転生、しました。
目が覚めたら、知らない空があった。
見上げた空は、紫と金が混ざったような不思議な色で、
風はどこか甘い匂いがした。
「……どこだ、ここ」
俺の名前は神崎ユウト。
二十歳。無職。趣味はネットで「転生する方法」を調べること。
まさか本当に転生するとは思ってなかった。
「……いや、夢だろ。夢に決まってる」
そう言いながら立ち上がる。
柔らかい草の感触。
靴もスマホもない。見知らぬチュニックを着ている。
見渡す限り、草原。
遠くには山、そして見たこともないほど巨大な木。
小川が流れていて、水面には前世と変わらない俺の顔が映っていた。
「……転生、した……のか?」
そう呟いたとき、胸の奥で何かが跳ねた。
不安と期待が入り混じる。
けれど剣も、魔法も、ステータス画面もない。
「とりあえず歩くか」
一歩踏み出す。
――その瞬間。
ドンッ!
足元で地面がはじけた。
土が舞い、足跡の周りが軽くクレーターになっている。
「……え? 今、俺、ただ歩いただけだよな?」
慌ててもう一歩。
また、ドンッ。
なんだこれ。地面がやわらかいのか?
いや、違う。
力の加減が、まるでできない。
「おかしいな……俺、もしかして、重力壊した?」
小石を拾って投げてみた。
ひゅん、と音を立てて飛び、
空の彼方で小さな閃光が見えた。
「……爆発した?」
何がどうなってるのか、全く分からない。
剣も魔法も知らない。
けれどどうやら、
この世界での“俺”は、何かが違う。
「……ま、いいか。とりあえず人を探そう」
空腹を感じながら、俺は森の方へ歩き出した。
一歩踏み出すたびに、足元の草が吹き飛ぶのを知らないまま――。




