表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

蕾が咲いた春

この作品はサツキ様のボーカロイド曲「メズマライザー」にインスピレーションを受けて制作した作品です。

もし本家様の印象を崩されたくない場合は、閲覧をお控え頂けると幸いですm(*_ _)m

初投稿の作品なので、誤字脱字などがあればお知らせ願います


※登場人物や登場する会社名は実在しない架空の物です


春の風はまだ冷たかった。朝の光が高層ビルのガラスに反射し、街を銀色に染めている。出戸てとは、真新しいスーツの裾を気にしながら、亞北商事の本社ビルを見上げた。ガラス張りの外壁に、自分の小さな姿が映っている。

「今日から社会人かぁ……。」

小さく呟いてみたものの、声は風に溶けた。希望と緊張が入り混じる胸の奥で、鼓動が少し速くなる。彼女は大学を卒業したばかり。地方の国立大で経済学を専攻し、就活では最後まで“安定”を重視していた。亞北商事――名の知れた総合商社。給与もよく、福利厚生も手厚いと聞いていた。

(これでようやく親も安心するだろうな。)

だが、どこかで、何かが引っかかっていた。自分が“ここ”でやりたいことが何なのか、まだよく分かっていなかった。


入社式を終え、研修室の空気には緊張が満ちていた。前列のスクリーンには「亞北商事 新入社員研修」の文字。周囲には、キラキラとした笑顔を浮かべる同期たち。出戸はその中で、ただ静かにペンを走らせていた。

昼休み、隣の席の女子が話しかけてきた。「出戸さん、どこの部署配属になりたい?」「うーん、営業企画とか、動きのあるとこがいいな。」「行動派なんだね!」

笑いながら言われ、出戸は少し照れた。「いや、動きたいっていうより、じっとしてるのが苦手で。」その言葉には、ほんの少し、焦りが混ざっていた。


配属発表の日。モニターに表示された自分の名前の横に「営業企画部」と出た瞬間、胸が高鳴った。同時に、前方の席から小さな声が聞こえた。「うわ……営業企画、音瑠ねる課長のとこじゃん。大変だな……。」

その言葉に、出戸は首を傾げた。音瑠課長――?


初出社の日。出戸は早めに会社に着き、配属先のフロアのドアを開けた。そこは、整然としたデスクが並び、コピー機の音だけが響く静かな空間だった。緊張しながら中に入ると、淡いベージュのカーディガンを着た女性がこちらを振り向いた。

「おはようございます。新しく入った出戸さん、ですよね?」

柔らかな声。彼女の髪は肩でふわりと揺れ、少し眠たげな目をしていた。それでも、その目の奥にどこか寂しげな光が見えた。

「はい!出戸です。今日からお世話になります!」

「私は美久みく。この部署の先輩ね。分からないことあったら、なんでも聞いて。」そう言って、笑う。その笑顔は温かいのに、どこか痛々しかった。


朝礼の時間、課長の音瑠ねるが姿を現した。長い黒髪をタイトにまとめ、スーツのシルエットは無駄がない。その立ち姿だけで、フロアの空気が張りつめる。

「今日から出戸が加わる。以上。」

短く、それだけ。出戸は思わず姿勢を正した。美久が小さく笑って、彼女の肩を叩く。

「課長、口数少ないけど悪い人じゃないから。たぶん。」

「たぶん……って。」出戸が笑うと、美久はいたずらっぽく片目をつむった。


昼休み。会社の近くの小さな定食屋で、美久とランチを取ることになった。彼女は魚の定食を選び、静かに箸を動かしていた。

「美久さんって、ここ長いんですよね?」「もう……十一年かな。」

「十一年!」思わず声が大きくなり、周りの客が振り向いた。美久は照れ笑いを浮かべて、肩をすくめた。

「気づいたらね。でも、ずっとこの部署だよ。」

「ずっと……?飽きません?」

「飽きる暇、ないかな。次から次へと仕事が来るから。」

その言葉を言うときの声が、少しだけ掠れていた。出戸はそのとき、何か言おうとしたが、言葉が出なかった。

読んで頂きありがとうございます(*´▽`)

是非お時間があれば、第二章もご覧ください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ