9話 お引越し 2 ~side雪羽
廊下の一番奥の部屋は、広かった。
前の部屋でもあたしには十分広かったんだけど、
この客室(中クラスだそうです)は すごく豪華だ!
他の国から来た使節や官僚に使う部屋らしい。
部屋は2つあって、手前の部屋が居室で、奥の部屋が寝室になっている。
居室にはミニキッチンも附いていて、簡単な料理なら出来そうだ。
冷蔵庫にたいなのも組み込まれている。
何も音がしないので、これも魔法で冷えてるとか?
部屋には勉強机やダイニング、応接セットもあって、ほんと暮らせるね。
トイレはシンプル。
タイルは地模様があってちょっと高価そうだけど、
機能重視で無駄な装飾は無い。
便器は洋式。(和式だったら驚くよね)
使い方も基本的には変わらない。
ウォシュレットの洗浄と乾燥のスゴイやつ。(紙いらない位完璧)
前の部屋は病室だから着いていると思ってたんだけど、標準装備なのか……
お風呂は洋画に出てくる猫足のバスタブだった。
シャワーもある。
このお風呂、使い難いんだよね。
使い方分からなくて、初めての時はライアさんが付いてくれたんだけど
周りに飛び散るし、
お湯がもったいないし……
その内、慣れるのかな……?
物珍しげに、部屋を覗き廻っていた あたしに
『本当なら国賓級のお部屋で、おもてなしするべきところを……』
ってライアさんは謝ってくれてたけど、
そんな居心地の悪そうな部屋は、やです。
朝食が済んだ後 ライアさんが小箱と
新しい服を持って部屋に来た。
「ユキハ様、今日は傷跡を取らせて頂こうと思うのですが、よろしいですか?」
ライアさんが遠慮がちに聞いた。
「え? あ……私の傷跡……」
あたしは言葉を失う。
(見られてたっ!)
恥ずかしさで頬が熱くなった。
(着てた服、着替えさせたんなら当然だよねっ!)
(気付いておけよっ! あたし!)
何も考えずに、ぼおっと気楽に過ごしていた自分に舌打ちしたい気分だった。
体に付けられた沢山の傷は、
自分が母親から愛されなかった証だと思っている。
その傷を見られたことは、
自分が愛される価値の無い人間だと知られてしまったようで、心が重くなってしまう。
「怪我の治療の際、やむを得ず見てしまいました。申し訳ございません」
ライアさんが深く頭を下げた。
女官長という、たぶん重要な職に着いている人の真摯な態度に、拗ねてる訳にもいかなくなって
「あ…… いえ…… こちらこそ、傷を治して頂いたのに…… ごめんなさい」
謝ってみた。
複雑な気持ちなんだけど、
それより何より、
さっきライアさんが言ってた事の方が気になる。
「あの…… でも、傷跡なんて取れるんですか?」
(無くせるものなら、無くしてほしいです。)
「ええ。サリエスに治療具を 借りてきたので、簡単に治りますわ」
ライアさんは、そう言って にっこりと微笑んだ。
驚いた。
(そんな事が出来るのっ!! しかも、簡単に?)
「お願いしても、 いいですか?」
思わず齧り付く勢いで、ライアさんを見上げて あたしは言ってしまった。
「もちろんですわ。では、始めましょうか。 服を脱いで、ベッドに横になって下さい」
笑顔でライアさんに言われ、
手伝ってもらってヒラヒラお嬢様服を脱ぎ
下着姿でベッドに上がる。
このベッド、ふかふかで、天蓋も着いてるお姫様なベッドだ。
仰向けに寝そべった。
ライアさんはお腹の上にバスタオルをかけてくれて
「すこし熱く感じるかも知れません。熱すぎたら言って下さいね」
と、やさしく言われて ずっと昔、パーマをあてる母親について行った美容院の会話を思い出した。
(美容師さんみたい……)
少しおかしくなった。
傷跡の治療は、特に熱くも痛くもなかった。
先端がガラスの様な物で光る棒状の治療器具を当てられた部分が、
じんわりと暖かく、ちょっと痒かった。
ライアさんは作業に集中してるみたいだし、邪魔したくないので 会話がなくて暇だっだけど、
今度の服は地味なのがいいなぁとか じっとして考えていたら
いつの間にか あたしは うとうとしていた様だ。
「ユキハ様、今日はこれくらいに致しましょう」
ライアさんの声で目が覚めた。
心持、体がだるい。
うっそりと起き上がろうとすると
「しばらく、このままでお休み下さい。
休むのが一番ですから。
少し落ち着いたら、昼食をお持ちしますね」
と、ライアさんに止められた。
曖昧に返事をして、そのままベッドに寝転がった。
(ヤバイ すごい ダルイ……)
そして 下着姿のまま すぐに、眠ってしまった。
勉強机=ライティングデスクです。雪羽の中では勉強机でしかないですが……
雪羽、相変わらず眠ってばかりです。
心身が優れない時は、眠るのが一番だと雪羽は考えています。