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巫女と依巫  作者: 若宮 不二
第2章
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13話 魔獣8

2012.7.1 内容を一部変更しました。

蒼玉宮せいぎょくきゅうに 突如 魔獣が出現し、巫女姫が襲われた』

『3体中、1体をアルフレッド王子が仕留めるも、2体は逃走』

『現在、王城及び神殿の結界内に潜伏しているもよう』



 この知らせが届くと、執務室は殺気立った。

 執務長官ジョナス・ラズモントの号令の元、事実の把握と 現状の確認、王への報告と評議会の招集、王宮の警護及び魔獣の掃討の手配……等々 やらなければならない事は山のようにあった。

 王城に魔獣が出現するなど、前例のない非常事態の上に所轄(なわばり)争いが早々に始まっていて、混乱を避ける意味で、国王直下の組織である執務室が采配を振るう事になったからだ。

 

 そもそも巫女(みこ)依巫(よりまし)も召喚が行われた時点で、魔道府全体の仕事量は増加し 必然的に執務室も慢性的な人手不足を抱えている。本来の業務以外の仕事に借り出される者が多いのだ。

 普段のオーバーワークに加えての急務に、現在 王都にいる執務室職員は全員徹夜で対応に追われ 夜が明ける頃には皆 疲労の色がべったりと顔に塗られていた。



「ロニー! どうして、こんな事になっているんだっ!」

 王宮のそこかしこに夜通し()かれた松明(たいまつ)が 朝日に役割を(ゆず)る頃、シーウェルドの叫び声が『赤の庭』に木霊した。


「通商会談に借り出されて半月もこき使われた挙句、やっと帰れたと思ったら 魔道府に転移出来ずに王都の外れに飛ばされ、今の今まで足止めを食わされてたんだぞ!

 なんとか話を通して戻ってみれば 座る暇も無く、お前に強引に連れ出されて……

 いい加減に説明したらどうだっ!」

「あ―――― 怒鳴らないでくれるかな~ 徹夜明けの頭に響くんだよぉ。 

 はいはい。 君の言い分は ごもっともです~

 説明します~

 昨夜、蒼玉宮(せいぎょくきゅう)に魔獣が出現、2体が逃走、王宮警護と第2師団で縄張り争いの末、本日正午までに警護が始末出来ない場合は第2師団が演習がてら狩る。

 ラズモント長官からは『師団を動かすな、修繕費が掛かる。 王宮警護の近衛なんぞ最初から数に入れるな、四の五の言わずに片付けろ』だそうです~

 魔獣の討伐(とうばつ)なんて、魔道師養錬所(アカデミー)の卒業試験以来じゃない? それをサクッと片付けろって? 長官の方が魔物? どんなけ人使い荒いの?

 あ~~っと、ちょっと意識が飛んでたわん。 

 えっと、魔獣は瘴気を吐くのと、焼き殺さないといけないヤツ。 やっかいだよねぇ~

 と、いう訳で シーウェルド。 がんばってね」

 そう言って友人にウィンクするロニーはすっかり徹夜の所為で、精神が飛んでいるようだ。

 しかし、魔獣が逃げた後の庭園で出現場所の警備に当たっている兵に聞こえない様配慮したつもりだろうか、ロニーの説明は かろうじて小声であった。 

 ロニーの緊張感のない話にシーウェルドは青筋を立てたが、気をとり直して現状の確認を取った。


「被害は?」

蒼玉宮(せいぎょくきゅう)の一室が大破~ 負傷者数名、死者ゼロ。 巫女姫様とアルフレッド王子は無傷~」

「そうか」

 一言ロニーに返し、歩き始めるシーウェルドにロニーは不思議そうな声を上げた。

「あれぇ? ユキハちゃんの事、聞かないの~? 会ってないんだろう?」

 シーウェルドの歩みが止まる。


「ユキハに……何かあったのか?」

 前を見つめたままシーウェルドが問うた。

「いや、何も……無いと思う。 魔獣が逃げた直後に結界が張られているから、討伐関係者以外は建物から出られないし、ザンバルデアの所か~、居住区に居ると思うけど……会いたくない?」


「ロニー、その可愛く(かし)げた首を折って ぐるっと1周回していいかな?」

 再びこめかみに青筋をたてながら、シーウェルドがにっこり笑った。


「愚問……だったね」

 ロニーはシーウェルドの沸点が いつになく下がっているのを感じ取ると素早くシーウェルドと距離を取った。 そんなロニーを横目で見ながら、シーウェルドはまばらに伸びた無精髭(ぶしょうひげ)に手をやりながら ぼそりと漏らした。


「俺だって すぐにでも顔が見たいさ……でもなぁ、こんな格好で会えないだろ」

「あ~確かによれちゃってるねぇ。 昨日は風呂入ってないだろうし~下手したら2・3日? あはは! そうだよねぇ~ユキハちゃんに『シード、汗臭いですっ』なんて言われたくないよねぇ」

「そこまで、酷くはない……が、そんなところだ」

 シーウェルドは憮然(ぶぜん)とした顔で続けた。

「ユキハさえ無事なら、後で時間など幾らでも取れる。 ユキハが無事なら……今は それでいい。 仕事をさっさと終わらせて、ゆっくりと会いに行くさ。 その為には、師団に引っ掻き回されたくない。 長官の言うとおり仕事が増える。

 それに戦闘なんて、俺も久しぶりだからな……勘が鈍っているともかぎらんし、手間取っては(まず)い。

 時間は無駄にできない。 

 追うぞ」

 シーウェルドは自らを鼓舞(こぶ)するように言うと、魔獣の逃げた先に駆け出した。



 *********************************



 雪羽が目を覚ました時、同室のミリは すでに出かけた後だった。

「いつも 無理やり掛け布を剥がさなければ起きない朝寝坊なのに……」

 寝過ごしてしまったのだろうか?と雪羽は一瞬焦ったが、空を見ると 夜は明けたばかりのようだ。

 不思議に思いながらも、雪羽は身支度を整え朝食を摂りに食堂へ向かう。

 しかし どうも様子がおかしい。居住棟全体がザワザワと浮き足だっている様に思えるのだ。


 食堂に着いた雪羽は目を見開いた。

 この時間帯の食堂は いつもガラガラで、早出の女官が食事を取っているくらいなのに、今日は満席に近い人出なのだ。厨房も大忙しの様子で、オンとレイのために貰う残飯も今日は無理そうだった。 

 雪羽は溜息を一つつくと、食堂をクルリと見回した。目当てのミリの姿を見つけると、雪羽は混み合う中をすり抜けて声を掛けた。

「ミリ、何かあったの? みんな いつもと、違うよ?」

「ユキハ~~ 今、呼びに行こうと思っていたところだったのよ!」

「?」

「魔獣が出たのよ! この、王城に!」

「まじゆー?」

「魔獣よ。 ま・じゅ・う。 すっごい凶悪なヤツでね~2匹もいるんだって! キャー!コワ~イ!」

 雪羽が声を掛けるまでミリとお喋りをしていたミリと同年代の女官達も、笑いながら『コワーイ』と声を揃える。

 その様子は 怖がっているというより、楽しんでいるように雪羽には思えた。


「怖いものなのですか? まじゅうは」

 魔獣を見たことのない雪羽は 一体どういうものなのか見当もつかず 素直にミリに訊ねる。

「うーん。 どうかなぁ。 私も話は聞いたことがあるんだけと、どんな姿かは本でしか見たことないし……あっ、そうそう。 建物に結界が張ってあるから、魔獣は入って来れないの。だから、怖がらなくていいのよ。 昼までに近衛が退治するって話だから、運が良ければ窓から魔獣退治が見れるかも」

「はあ……?」

「それよりもよ! 演習から戻ってきた騎士団が詰め所に入りきらなくて居住棟の広間で待機しているの!」

「はい?」

 雪羽はそう言われてもピンとこない。

「有望株のチェックと、今年入団した子(ルーキー)の発掘をいかに効率良く行うかを皆で検討しているのよ~」

 そう言ったミリは、大輪の花が咲くように笑った。周りの娘達もキャーキャーはしゃいでいる。

 非常に楽しそうである。

 女官といえども、皆 うら若き乙女達なのだ。

『この非常事態に不謹慎だ』などと野暮な事を言う上役は 此処には どうやらいないらしい。

 乙女たちの興奮で騒がしい食堂だが、朝食を摂っている上役は せいぜい苦笑を浮かべて『程ほどになさいね』とたしなめる程度である。


「ユキハも一緒に行く? 私達、広間の騎士の世話役を命じられたのよ」

「あたしは……おじいちゃんの所に行きます」

「そう? 老師も今日は忙しいと思うけど…… まあ、老師の了解が取れたら ぜひ来なさいね。イイ男の見分け方を教えて()()()から! ウフッ」

 水を得た魚というのは こういう事を言うのだろうか、と言葉に出したくなるほどのミリの笑みに

「……はあ」

 と雪羽は気の無い返事を返した。

 この世界のイイ男が見分けられる事に大した利点があるとは思えなかったが、ルームメイト誘いを無下にすることもはばかられるので、とりあえず手早く朝食を済ませ、雪羽はザンバルデアの元へ向かった。 








大変時間が開いてしまいました。

いろいろな都合で……申し訳ないです。

そして、読んでくださって ありがとうございます。

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