表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巫女と依巫  作者: 若宮 不二
第2章
36/49

1話 秘密のクスリ ~side雪羽


 「おはようございまーす。 ザンバルデア(おじいちゃん)のクスリをいただききに まいりましたぁ」

 今日も元気に 受付の女の人へ頭を下げて 挨拶をする。

 何事も、挨拶が基本だって面接の時 社長が言ってたからね。


 「ユキハちゃん、おはよう。 今日も元気ねぇ~ オバさんまで元気になるわ~。 薬、多分もう出来てるから サリエス様のお部屋にどうぞ~」

 笑顔で通してくれる。

 受付の人とも顔見知りになって、チェックも無しに目的の部屋へ向かう。

 療法院の奥にあるサリエス先生の部屋に行くには、セキュリティーチェックみたいなのを するんだけど、もうしなくて いいのかな?



 魔道師ザンバルデアの元に来て10日が経った。

 初めて会った時に、なんて呼べば良いのか聞くと

 「お爺ちゃん、で良いではないか?」と本人が言ったので、お爺ちゃんと呼ばせてもらっている。

 大体の人は老師って呼んでいるのに……?

 理由を聞くと

 依巫(よりまし)で なくなったあたしが目立たないように生活する為に、一般にはザンバルデアの古くからの知人の孫という事で通すらしい。

 さらに

 『とある事情で 辺境の山奥からザンバルデアを頼りに一人出てきて、雑用などをしながら、一般常識を学ぶことになった。

 人里離れて暮らしていたので、世間知らずの常識無し。 

 独特の言葉を使う地方から来たので、公用語は片言しか話せない。』

 なんて設定が付いているんだそうな。


 うさんくさい話だな~と思うんだけど、

 ザンバルデアの弟子は出世するという説がまかり通っていて、弟子希望の人間が後を絶たないそうだ。 ちなみに、ラズモント執務長官も女官長のライアさんもシードも弟子なんだって。

 で、その人達の妬みをかわすためにも 弟子だとは絶対思われない形にしたんだと シードが教えてくれた。

 その代わりに、ザンバルデアをお爺ちゃんと呼ぶあたしを見た人達は、あたしがザンバルデアの隠し孫?だと思ったみたいだけど……

 

 そんなザンバルデアは スゴク偉い人なんだろうに、あたしの前では優しいお爺ちゃんだ。

 だから、あたしもお爺ちゃんの手助けになれればいいなと 出来る事をやらせてもらっている。

 それで毎朝、療法院のサリエス先生の所に、薬を受け取りに来る事が あたしの日課になった。

 お爺ちゃんは 最近具合が良くないそうで、薬を飲んでいる。 

 保存がきかない薬なので、毎朝決まった時間に あたしが受け取りに行くのだ。




 コンコンコン!

 「しつれい いたしま~す。 サリエスせんせー。 雪羽です。 クスリをいただききに まいりましたぁ」

 お爺ちゃんに教わった 決まり文句を言う。


 「入りなさい」

 いつもと同じ中性的な声で、いつもと同じ返事があったので、そうっとドアを開ける。


 サリエス先生の部屋はメモ紙だらけで、そっと動かないと壁に貼られたメモ類が飛ぶ。

 何が書いてあるのか 私にはさっぱり解らないが、式みたいなのや 図やら記号やらが書き殴られた感じだ。

 理解の出来ない物を、元通りにする事など不可能なので あたしは散らかさないよう 静か~に動くようにしている。


 いつもの通り、デスクの脇の丸椅子に腰掛けて、先生が薬を渡してくれるのを待つ。

 先生は隣にある 調剤室兼実験室で用意をしているみたい。

 暇なので、部屋をキョロキョロと見廻す。


 デスクの上に写真立て発見! 


 中の人物は動くのか?と期待して覗き込んだけど、残念。 普通の写真だった……

 サリエス先生と…… 知ってる人が写っている。 シードの上司の偉い人だ!

 しかも、2人とも笑ってる! ラズモント長官だったっけ? 笑うと、こんな顔なんだね~


 それにしても、サリエス先生を初めて見た時はびっくりしたなぁ~

 水色の長い髪の毛で、アイスブルーの瞳なんて アニメの中でしか見たことないよ!

 しかも、女の人?ってくらい華奢(きゃしゃ)綺麗(きれい)だし。

 思わずエルフですか?って聞くところだった。 耳は(とが)ってないし人間みたいだけど……

 言葉が少ないところが また 人間離れしているんだけどなぁ~


 などと、物思いに(ふけ)っていると


 「待たせたね。 老師の具合はどう? 少しは 良くなった?」

 防護用の眼鏡を掛けたままで先生が出てきた。


 今日も、不機嫌そうですね。 そして、髪の毛 ぼさぼさになってますよ~

 しかも、前髪が右目ふさいじゃってるじゃないですか! 見えてないでしょ?

 綺麗な顔が台無しですよ。

 なんて

 余計な事を言ったら つまみ出されそうなので 言えないけど……


 今日は伝言を頼まれたから、忘れないうちに言っておこう。

 「はいー。 良いくなったので、止めていいかと聞いてこいです。」

 伝わったか? 

 聞き取りは随分出来るようになったんだけど、話すのが上手く出来ないんだよね。


 「ああ。 ダメ、って言っといて。 歳なんだから体力落ちてて当たり前だし、休めって言っても国の事で忙しいんだから 休まないだろうし、薬飲んで働けってね。

 解る?

 お爺ちゃん、クスリ、飲む。」

 先生は氷河の水溜りみたいな瞳で、じっとあたしの目を見つめながら ゆっくりと区切りながら発音してくれた。

 無愛想で、そっけないけど仕事はきちんとする人なんだろうな。

 異世界の小娘にもわかるように、毎回簡単な単語を使ってくれる。


 「はいー。 お爺ちゃん、クスリ、飲んで働く。 ですね」

 ちゃんと言えてるよね?

 発音は苦手だ。



 あれれ?

 眉間に皺寄せて…… メモ書いて袋に貼ってる。

 信用ないなぁ。


 ん?

 それに もう1つ袋がある?

 薬、増えるのかな?


 「これは、ユキハのクスリだ。 夕食後に3粒飲むように。 夕飯、後、3こ。 解る?」

 袋を渡された。


 「何の、クスリですか?」

 あたし、どこも悪くないんですけど?


 「成長促進剤だ。 背、伸びる、クスリ」

 こころもち、上機嫌っぽく言われた。


 (ちょっと待って。 背が伸びる薬って、今 言ったよね?)

 

 「そんなクスリ、あるのですかー!」

 

 (すごーい! さすが異世界~! くれるの? ちょっと!あたしラッキーじゃない?)


 「まあね。 ユキハが初めてライアに連れられて来た時、『15歳だから、背はもう伸びないかも。 背が伸びる薬があったらいいな』って言ってたろ?」


 (わあ。 それで調合してくれたの? この人、いい人だぁ~)


 「せんせー! ありがとうございます!」

 (ラッキー! 嬉しい!)


 「あ。 でも、お金ないです」

 (こんな高価そうな薬、払えないよ?)

 召喚の時、治療してくれたって聞いたから、分かってくれてるとは思うんだけど?


 「金のことなら、心配しなくていい。 好きな事の為に使う金は 惜しまない主義だから」

 頭をわしわしされた。


 「あああ……ありがとうございますー」

 (うわわわ ヤメテ下さい! 薬はとても ありがたいですけど~ 頭がぐしゃぐしゃになったじゃないですか)


 学校の屋上でザクザクに切られた髪が可哀想だ、女の子は可愛くなさいと、ライアさんは花の飾りの付いたピンを沢山くれた。

 そのピンで前髪とか留めてたのにー! 時間掛かったのに!

 しかも、後半が早口で 何言ってるのか聞き取れなかったし……


 結局、散々頭を引っ掻き回されて、髪の毛がグシャグシャになってから 手を離してもらえた。

 むっとした顔を上げると、先生の男女な美人顔が 間近にあった。


 「薬の事、他の人には ナイショだからね。 お爺ちゃんにも言っちゃダメだよ」

 先生、ちょっと 顔が近いです。

 眉毛も、まつげも水色ですね。 お人形さんみたい。 

 

 それはそうと、秘密にしろとは あやしいなぁ。

 

 「どして ないしょ ですか?」

 隠す意味が どこにある?


 「これでも私は療法師としては人気でね。 診察も調薬も予約で一杯なんだよ。 だから、勝手に薬を作ったらダメなんだよ」

 ちょっと困ったような顔で 先生が説明してくれる。


 なるほど。

 割り込みがバレたら、まずいんですね?


 「わかりました。 いいません」


 恩を仇では 返せません。


 「いい子だ」

 先生が 薄く微笑む。


 デスクの電話みたいなのから、受付の人の声がして、何やら話が始まった。

 本当に忙しい人みたいだ。

 邪魔をしては申し訳ないので


 「せんせー。 ありがとうございましたぁ」

 と小声で言うと、先生が軽く手を上げたので

 薬の袋 2つを持って そうっと部屋を後にした。




 *********************************



 雪羽がそろりと部屋を出て行った後、サリエス・ファラーは待たせていた仕事を手早く片付け、お気に入りの椅子に深く腰掛けて 先ほどの雪羽とのやり取りを思い出していた。


 「ふふふ…… 背を伸ばす薬なんて、この世界にも有る訳ないだろ?

 薬で伸ばすなんて、今まで考えた事もなかったからな。

 実に、新鮮だ。 面白い。

 

 取り合えず 3粒にしてみたけど、さて どれだけの効果が現れるか……

 結果が楽しみだな」


 そう(つぶや)くと、ニヤリと笑みを浮かべた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ