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巫女と依巫  作者: 若宮 不二
第1章
29/49

29話 巫女 4 神の間 ~side花音

 

 謁見(えっけん)の席では、我ながらよく耐えたと思う。

 本当は、勝手に人を呼びつけた王様とやらを罵倒(ばとう)したかったけど、不敬であるとか言われて殺されるのは困るから、我慢した。

 平伏低頭(へいふくていとう)とまでは強要されなかったのも幸いだった。

 意外と巫女のポジションは高いのだろうか?

 王族や貴族らしき人々の、品定めをしているであろう視線にも辟易(へきえき)したけど、アルが隣でずっとムッとした顔で そいつらを(にら)んでいたので、()しとした。


 後は、大神殿の『神の間』を見学したら部屋に戻れるそうだ。


 宮殿から大神殿へ向かう道すがら、アルは宮殿と神殿について説明してくれた。

 要約すると、

 アースリンド国の王都の中央には宮殿と隣接した大神殿がある。

 宮殿には、王が政を行う金剛宮(こんごうきゅう)と 王、王妃、王女、年少の王子、側室が住まう後宮(こうきゅう)、成人した王子が住まう宮殿群とがあり、アルフレッドの蒼玉宮(せいぎょくきゅう)もその一つだ。


 神殿は荘厳(そうごん)な古代様式の石造りの建物で、建国当時から現存する数少ない建造物である。

 白亜の列柱(れっちゅう)は植物の(みき)(かたど)り、柱頭部(ちゅうとうぶ)には葉の彫刻が刻まれており、大神殿の周囲を取り囲む回廊を華麗(かれい)装飾(そうしょく)している。

 床は長い年月を()てなお 鏡のような光沢を失わず、壁には神々の物語を(かたど)った、繊細(せんさい)なレリーフが(ほどこ)され、神話を後世に伝える役割を果たしている。


 その大神殿の最奥に『神の間』がある。

 神の間には三()りの剣が奉じられていて、その剣を用いて巫女は依巫に神を降ろす。


 アルの説明から、賞賛の言葉を抜くと、大体こういう内容だ。


 アルって、すごく言葉を飾るというか 詩的表現を多用するよね。

 王子様的素養(そよう)の一部ですか? と聞いてみたい。

 まだるっこしいので、止めてもらいたいけど。



 長ったらしいアルの説明を聞くうちに、大神殿の『神の間』の入り口に到着した。


 高さ4メートルはあろうかという巨大な青銅(せいどう)の二枚扉の両横には

 白くて飾りの少ない衣装を着た中級っぽい神官二名と、並っぽい神官二名が控えていた。

 中級はおじさんで、並は若者だ。高慢糞坊主(こうまんくそぼうず)どもと違い、この四人は聖職者っぽい禁欲的で清らかな空気が漂っている。


(よかった。ちゃんとした神官もいるんだ)


 そして、神の間へと通じる ゴテゴテとした浮き彫りが施され、無駄に頑丈そうな扉は、神官四名の手によって、自重に(きし)みながら、ゆっくりと押し開けられた。

 神の間への扉というより、地獄の門と言う方が相応(ふさわ)しいんじゃないだろうかと思いながらも部屋に入る。

 中は、半球形の天井に開いた、大きな穴から差し込む陽の光で、とても明るかった。

 天井の穴には、ガラスなど()められておらず、ぽっかりと青空が(のぞ)いていた。

 壁も天井も大理石に似た白く大きな石材が使われていて、その継ぎ目は、髪の毛一本も通らない位きっちりと組み合わされている。


 扉から向かって正面奥には壁面一杯、天井まで広がる(つた)をデザインした黒い金属の刀掛けが取り付けられていた。

 所々に金や宝玉で(きら)びやかに飾られたそれに、三()りの神剣(しんけん)(さや)に納められ安置(あんち)されている。

 一振りずつ(つた)(から)め取られる意匠(いしょう)で、特に立派な一振りを頂点に同じ様な二振りが下に並び、正三角形に配されている。


 神剣の前には、直径1.5メートルほどの水盤が、花を(かたど)った台の上に乗せられていた。

 水を満々と張った、その水盤は水鏡(みずかかみ)と呼ばれ、神との会話に使われる代物(しろもの)らしい。


 中央の床には、魔法陣らしき模様が緻密(ちみつ)なモザイクで描かれていて、他より3段ほど低くなっている。


 それ以外は特に、窓や飾り、扉など何もなく、ガランとした部屋だ。


「清らかで静かな場所で、ございましょう?」

 中級神官の一人が、穏やかな笑みを浮かべて言った。


 確かにその通りかも、と思った時。


 微かな振動を感じた。


「??」


 辺りを見回すが、特に変化はない。

 他の人たちは、何も感じない様だ。

 しかし、私がこうして見回す間もその振動は強くなり、鼓膜(こまく)に響いて痛い位だ。


(一体、何処(どこ)から?)


 ゆっくり室内を歩き始めると、今度は(ささや)き声が聞こえてきた。

 何を言っているのかは、解らない。しゃわしゃわした声が、囁きのレベルを超えて響き渡っている。


(こんなに不気味な音が、満ちてるのにみんな気が付かないの?)


 アルの顔を見上げても、にっこりと微笑み返されるだけだ。


(やっぱり、聞こえてないんだ……)


 そして、大きく小さく空間を埋める耳障りな声は、水鏡から聞こえて来る様だった。


 怖い。

 怖くて、とても近寄れない。


 怖がっていても、(らち)が明かないのは 頭では理解しいても、

 本能が「まわれ右して、ダッシュで逃げろ!」と告げている。


 囁く声の雰囲気が、禍々(まがまが)しいのだ。


(神とかって、もっと こう……神々しい清らかなオーラとかじゃない?

 怨念がこもった欲望の叫びっぽいんですけど……

 なんだかヤバイ神様?

 邪神も神ってコト?



 水鏡には、近寄らないでおこう


 別に好奇心とか無いし―――これがホラー映画なら 水鏡を(のぞ)き込んだ瞬間、白い手とか、どわーって出てきて水の中に引きずり込まれるんだよぅ!


 怖すぎ。


 高慢糞坊主(こうまんくそぼうず)が得意顔で水鏡の説明とか始めてるし……

 さあさあって、手招きしても、行かないからっ!


 耳は痛いし、囁く声も大きくなっているし……気分悪い。

 吐きそう……)


「カノン。大丈夫ですか?顔色がすぐれませんよ……」


 アルが倒れそうな私に気が付いて、支えてくれた。

 冷や汗が額から流れる。

 (つな)いだ手から、アルの体温が伝わってきて、自分の指先の冷たさに気付く。


(いや……大丈夫じゃない……マジ無理かも

 ヤバイ。 立ってられない)


 体は動かないのに、思考だけはグルグル回った。声が五月蝿(うるさ)い!耳が痛い!



 ふわっ


 体が浮いた。


「え?」


 びっくりして閉じていた目を開けると、視点が高い。 

 見上げるとアルの顔が間近にあった。 どうやら私はアルにお姫様抱っこをされているようだ。

 普段なら、こんな小っ恥(こっぱ)ずかしい格好は、断固拒否したいところだが、今は非常に有難い。

 もう、頭がクラクラして、まともに歩けそうにないのだ。


 もう、なんでもいいから此処から連れ出して欲しい。


 重くて、やっぱり無理とか言われて降ろされるのは(いや)だな~などと、チラッと思ったけど、私の体重を支えているアルの両腕はとてもがっしりした筋肉がついていて、優男(やさおとこ)な顔からは想像できない程、(きた)えられている様だ。 少なくとも部屋に帰るまで位は、平気そうな安定感があった。 

 アルは、突然のお姫様だっこに驚く神官達を押しのけ すごいスピードで、部屋まで戻ってくれた。


 神の間を出てからは、あの声は聞こえなくなったし、頭痛も無くなったけど、代わりにどっと疲労感が押し寄せて……

 その所為(せい)かどうか判らないけど、アルに抱き上げられて運ばれるのは ユラユラ、フワフワして とても気持ちがよかった。





続きは次回に・・・


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