27話 巫女 2 饒舌な沈黙 ~side花音
花音の頭の中の話です
ここは、ヤバイ。
神官を名乗るお爺ちゃん達……
怪我した女の子、無視しやがった。
衣装も豪華で位が高いらしい神官たち……高慢糞坊主どもと命名しよう。
私の事を「巫女様」「姫様」などと、目一杯持ち上げてはいるが、その目が語ってるよ
賛辞と贅沢で溺れさせとけば、下賎の小娘なんぞ容易くあしらえるって。
残念でした。
贅沢にはね、慣れてるんだ~
自分の利益の事だけ考えて行動する人達の、邪な眼にもね。
それにしても……問題は、この胡散臭い奴らから、何時逃げ出して
どうやって帰るかって事。
帰る方法はあるんだろうか?
知り合いが一緒だなんて、ものすごい偶然で少し心強いけど、永山さんだし……
彼女を当てには出来ないか。
永山さん、怪我してたみたいだし……
今すぐは動けそうにない。
大丈夫かな?
早く合流してしまいだいんだけど…… 一緒に帰れるものなら そうしたいしね。
私から見た彼女の印象は、とにかく悪目立ちする子だ。
その低い身長と痩せた体型は、見た者を一瞬ギョッとさせる。
黙って廊下の隅に立っていたら、最早学校の怪談並みの不気味さがある。
それに加えて、歴代担任達の目の懸け様だ。
実際に同じクラスになった事がないから、彼女と同じクラスだった子からの話だけど
親から虐待を受けている!と言えない事情があるらしく、それを止められない引け目や罪悪感から逃れる為か、とにかく皆、彼女の事を特別気に懸けていたそうだ。
新学期のうちはクラスメイトも「自分より酷い環境の子がいるんだ。自分は恵まれている。彼女に負けないよう、頑張ろう。」という空気になるんだけど、
その内、彼らにもそれぞれ悩みなどが出てくる訳で、その悩みを彼女の置かれている状況と比べた時、鬱屈した気分になるらしい。
自分にとっては大きな悩みでも、彼女にしたら取るに足らないことだろうと 思ってしまうと、自分の器が小さいと自分で認めることになる。ささいな事でも、一喜一憂したい年頃である。
自分の周りの全てに感謝して生きるなんて、中学生には無理な話だ。
むしろ、全てに反発して、不平と文句をタラタラ言って暮らしていたい。
それが表立って出来なくなるのは、苦痛になる。
そこで、彼女の存在が鬱陶しくなり、自然発生的にイジメが始まるという構図らしい。
私はイジメられる方にも原因があると、思っている。
彼女は、もっとはっきり、自分の気持ちを言って、態度を明示するべきだと思う。
まあ、関わった事の無い私が言うのも変だけど……
その永山さんが、異世界に飛ばされて、怪我までしてるなんて……
どんだけ不幸体質なの?
と、自分のことはさておき あきれてしまう。
二人ともが、ちゃんと帰れればいいんだけどな。
私がこんな事を考えている間も、高慢糞坊主どもはこの国の窮状をお涙頂戴に訴えて、私の重要性・必要性等々 延々と、熱弁をふるってらっしゃる。
(「わたしでお役に立てるなら、喜んで!頑張ります!」とでも言うと思ってんの?)
誰が言うか、ボケ。
別世界から女の子浚う暇があるんなら、強力な兵器でも開発しとけ。
それはそうと、さっきから隣に座っているアルから、熱~い視線をガンガン感じるんだけど……
アルは、正真正銘の王子様だった。
生まれながらの、セレブってやつか……
あ~、苦手だな。
巫女と召喚者の関係も聞きました。
運命の人?
そんなの、本気で信じてるの?
そりゃあ、ロマンチックですよね。
でもね。
言い伝えとか、一目惚れとかで、お嫁さん決めちゃうのは どうかと思うよ?
王子さまの定番かもしれないけどもさ。
シンデレラや白雪姫、オーロラ姫もだ―――――おかしいよ?
白雪姫とオーロラ姫に至っては、一言も話していないよ?
顔だけか!
王子は顔しか見てないのかっ!と私はいつも叫びたくなる。
あ……オーロラ姫は一人娘だから、王に成れるのか……
私もそうなるかな。
三条家の血筋と多国籍企業のグループ創業者の娘。
血統と金――――― 欲する者は多い。
閨閥に組み込んで、資産を潤わせたい御方々や、由緒正しき三条家と姻戚関係を結びたい成り上がりがこぞって、狙ってくる。
執事の黒須が私に就いてからは、対処方法もずいぶん身に付いたけど、一度痛い目には遭っている。
だから、初対面の人を信用する事は出来そうにない。
というわけで、ごめんね。アル。
一目見た時から、2人は惹かれあってその夜の内にベッドインなんて、ありえないから。
そんなにフェロモン垂れ流しで熱心に見つめられても―――――――― 無理。
きっと勝手な妄想を膨らましているんだろうな……
見た目と違い、無垢でも初心でも可憐でもないんです、残念ながら。
だから、お願いです。
そんなに、ウットリした顔で こっちを見るなっ!
こっちは、この世界が掴めなくて、どんな対応していいのか悩んでるっていうのに!
それに。
永山さんを引きずり上げて放り投げた奴。
アルの仲間なんじゃない?
制服似てるし、馴れ馴れしかったよ?
アルも、止めなかったしね……
信用、できない。
やっぱり信用なんて、とても、できないわ。
アルフレッド。
あーあ。まだまだ、知らない事が多すぎる。
綺羅綺羅王子様に、絆されてうっかりドキドキしている場合じゃないよね。
糞坊主達は、自分の都合のいい情報しかくれなさそうだし……
一歩間違えると、あっさり殺されそう……
情報、誰から聞き出せばいい?
アルなら、ガードが緩そう?
帰り方とか、何か方法があるのかな?
呼べたんだから、帰る方法もあって欲しい。
帰す方法ありません。だったら ヤだな~
とにかく今は、様子を見るしかないか……
そして、私は暫くの間は 彼らに従順な、望み通りの巫女を演じ 情報を集める事にした。