26話 巫女 1 召喚 ~side花音
おまたせしました。やっと巫女です。
いつもの放課後。
いつもの友達。
それも、もうあと2日で終わってしまう。
────卒業。
みんな別々の高校へ進み、別々の毎日が始まる。
寂しさと、期待に胸をざわめかして……
でも、私の心は暗鬱だ。
未来に光が見えない。
周りは どんどん華やかに輝かしくなっていくのに、私の立っている場所には深く暗い穴が開いている。
いつか、この闇に自分は飲まれてしまう……
そんな、焦燥感と絶望感に心の底辺を炙られながら
私は、未来を生きるのだろうか……
でも、あと2日だけは。
わたしでいられる。
今日はみんなでお別れパーティーをする事にした。
仲のいいグループ同士が集まって、クラスの半分位は来るみたい。
女の子達は学校のトイレで軽くメイクをして盛り上がっている。
私も昨日買ったばかりの、ピンクのグロスをつけた。
うちの中学校は生徒指導がゆるい。
特に放課後は先生の目も行き届かないし、大丈夫。
「花音~~男子、もう 外で待ってるって~」
「分かったぁ。ねぇ、キョンちゃん早く行くよ!」
「待ってぇ。花音」
みんなで玄関で靴を履き替えていた
はずだった
え?
一瞬何かが光った気がした。
誰かが写真をとったフラッシュだと思った。
目をあけると……
知らないお爺さんがいっぱいいた。
そして、理解できない言語で話していた。
此れは、一体、どうした事かと
驚いていると、お爺さんの中から1人若い男が近づいてきた。
オ○カル!
まさにそんな感じの人!
ああ、塚ファンのオバさん達が此処にいたら、狂喜して、居住まいを正して、記念撮影をお願いするだろうに……
だって
金髪、長髪、巻き毛(後ろで束ねているけど)
真っ青な瞳、涼やかな目元
通った鼻筋、白桃の頬、珊瑚の唇!
長身、逆三、9頭身。
服は白い軍服。赤い飾り+金モール付き
完璧!
まさに、理想の王子様像。
オ○カル様は女だけど……
この綺羅綺羅しい後光は、まさに主役。
その綺羅綺羅王子が、私の手を取ると
振りほどく暇も与えずに、指輪を嵌めた。
近くに寄った御尊顔をポカンと見ていた私の顔はさぞかし間抜けだったろうと
少し赤面してしまう。
でも、指輪を嵌めた瞬間に周りの会話が理解出来、その内容に鳥肌が立つ。
巫女姫様?
なに、それ?
ひょっとして……これは俗に言う……
異世界召喚?
まさか!
キョンちゃんの妄想でもあるまいし!
そう易々と、違う世界に行けたりしないでしょ?
ふいに、綺羅綺羅王子が耳元で囁いた
「私の名はアルフレッド。 どうかアルと呼んで下さい」
私の目を見つめてにっこりと微笑む。
あ~。この顔。好きだ。
笑うと、可愛い。
実家の諸事情で、美形慣れ且つ、用心深い私なのに
うっかり魅入りそうになってしまった。
「花音です。 アル」
ああ!
しまった!
ちょっと照れてしまって……
つい、ぶっきら棒な感じにっ!
常に礼儀正しくは、お嬢様の基本なのに……
なのにアルは
「カノン。素敵な名前ですね。綺麗な貴方にぴったりです。
神に祝福されし、私の片羽。逢えて幸せです」
と、惚けるような眼差しを向ける。
えええええ?
片羽?
この指輪って?
そっちの意味の指輪なの???
「/////////」
アルの真剣な眼差しが、彼の誠意が本物であると言っているように感じた。
私は過去の失敗で、告白されても信じる事が出来なくなってしまった。
でも今は、何故か耳が熱い……
絶対、真っ赤になってる……
初対面の人に、歯の浮くセリフ言われたからって、ときめく事無いでしょ。と自分を叱咤してみた。
だけど、不覚にも やっぱりどきどきして、うつむいてしまった私の肩をアルがそっと抱き寄せた。
さっきから、なんだかゴチャゴチャ煩いお爺ちゃん達から、私を守ってくれているみたいだ。
…………悪くない。
こんな状況、信じられないけど
アルは嫌いじゃない。
(素直に、そう思える自分にもびっくりだよ……)
アルに促されて床の模様からそっと脇に移動すると
隣にも同じような模様が描かれていた。
黒の魔法使いのローブを着た、男の人が
呪文を唱え出すと、模様が光り出した。
目が眩むほどの光の後には
模様の上に何かが居た。
アルと同じような、でも少し地味な服をきた人が、それを掴みあげた。
人だった。
しかも・・・すごく傷だらけで血だらけだけど……
??
見たことある子かも……
クラスが離れているし、話した事も無いけれど
ひょっとしたら同じ学年の子かも……
名前は確か…… 永山さん?
「な(がやまさん)」
呼びかけた名前を飲み込んだ。
永山さんを掴んでいた男が、放り投げたからだった。
何?
失敗ですなって、怪我してる女の子投げたよ、この人!
信じられない!
それを見た瞬間、ゾッとした。
こんな酷いことする人達の中に、自分はいるんだって気付いたから。
恐る恐るアルの顔を見る。
眉間に皺を思い切り寄せて、苦く悲しい顔をしていた。
「(アル)」
声を掛けたかったけど、私もアルもお爺ちゃん達に押されて、部屋から出されてしまった。
目一杯振り向いて、最後に見えたのは
永山さんに駆け寄る、ローブの人の悲壮な顔だった。