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巫女と依巫  作者: 若宮 不二
第1章
24/49

24話 王子の溜息 ~sideシード

23話の続きです。

 

 チチ……チ…… 晴れた青空を小鳥が飛ぶ。 

 庁舎最上階西館奥のテラスは、約1名を(のぞ)いては、非常に穏やかな午後である。




 キィ



 テラスの扉が開いた。


 うな()れて、テラスに出てきたのは……


 アルフレッド王子。

 例の おうじさま だ。


 俺に気づかず手すりにもたれて、両手で頭を(かか)えたかと思うと


「はあぁぁぁ―――――」


 盛大(せいだい)溜息(ためいき)をつきながら、背を丸めて ズルズルと座り込んだ。

 柔らかそうな金髪を、豪快に()き回して

 うううう~と(うな)り声が聞こえそうな物騒(ぶっそう)な顔で、眉間(みけん)(しわ)などを()せて……


 (うるわ)しの王子様が台無しだな。


 しかし……なんだ?

 どうしたんだ?


 王立魔道師養錬所(アカデミー)では、ずっと同級生(クラスメイト)だったけど……

 こんな奴、初めて見るぞ。


 鬱陶(うっとう)しい、取り巻き連中も居ないし……


 俺は、取り巻きAこと、ロイス・エッカートが大嫌いだ。

 あの胸糞(むなくそ)悪い公爵家ご嫡男(ちゃくなん)様は、公爵家の権力を(かさ)にやりたい放題しやがる。

 さらにムカつくのは、雲行きが(あや)しくなると、王子に押し付ける事だ。

 結局、王子が()め事を、荒立てない様に(おさ)めるはめになるのだ。



 第6王子のアルフレッドは位こそ高いが、成人したところで大した権力は持てない。

 他国に婿入(むこ)りするか、臣下に下るか……その、どちらかである。

 元々小さい国のアースリンドに、王子達全てに与える領地などなく、大抵は中枢(ちゅうすう)(にな)う役職に()いたり騎士団(きしだん)に入ったりする。

 ちなみにアルフレッドは魔道騎士団 第2師団大隊長で階級は少佐(しょうさ)だ。

 所属する大隊は選りすぐりの精鋭揃(せいえいそろ)いで、就任当初は「王子様に(つと)まるか!」と反発が大きかったが、有無を言わさぬ実力で、()()せた……らしい。


 まあ、それだけの力量を持っていながら、取り巻き連に強く出ようとしない……

 そのアルフレッドの煮え切らなさに、俺は昔から腹が立って仕方ないのだ。



 などと思いを(めぐ)らしながら、無遠慮にジロジロ見ていると

 向こうも俺に気が付いたようだ。

 空色の瞳が見開かれる。


「 !!! 」


 取り合えず、寝転がったままではなんなので

 起き上がって、『よっ!』とばかり軽く片手を上げてみた。





 気まずい。





 しかし、沈黙は奴の方が破った。


「ウチのお姫様が、お前の依巫殿に会いたいんだって。」



 唐突に切り出された話に


「はぁ? なんでだよ?」

 アルフレッド達に対する学生時代の習慣で、つい 乱暴な口調で答えてしまった。


「知り合いらしい。」


「知り合い? 何処で知り合うんだよ。」


「あっちの世界で 学校の同級生だったそうだ。」


「嘘だろ。 同じ学校行ってたって云うのかよ……信じられねぇ……」


「全くもって、僕も信じられないけどね。 で、(カノン)依巫殿(よりましどの)が怪我をしていたのを見ていてね、すごく心配していて……」


「ふうん。お姫様の願いを叶えるべく、王子が走り回る訳ですか~

 まあ、知り合いなんだったら、ユキハ(こっち)は問題ないと思うけど?」


「じゃあ、蒼玉宮(せいぎょくきゅう)まで来てくれないか? 明日にでも!」


「それはまた急な……

 宮殿の北側だったよな……ラズモント長官に一応話しを通しておいてくれないか? それと、ユキハには俺が付き添う。」


「それでかまわないよ。 ありがとう。じゃ、そういう事で!」

 いやに晴れやかに王子がいうので、ちょっとからかってみたくなって


「お姫様のお世話は大変だな。 うまくいってないのか?」

 と聞いてみた。


「ものすごく、手強(てごわ)いよ。やっぱり異世界の()だからかな……思い通りには行かないよ。でも、楽しい。いろんな意味であんな()初めてだよ。 なんだかゾクゾクするよね。」


(いやいや。俺はゾクゾクはしてないよ?)


 そろそろサボってられない時間になって、俺は服の(ほこり)なんぞを払いながら立ち上がった。




「それはそうと。お前らは、どこまでも仲良しだよな……」

 王子も、立ちながら 少し寂しそうにも見える複雑な表情で。ポツリと言った。


「はん? 誰と誰がだよ?」

 思わず、王子の顔をまじまじと見た。


「お前と、ロナルド・ベックフォードだよ。」

 俺の不躾(ぶしつけ)な視線など全く気にせず、さらりと答えた。


「??ロニー? 確かに仲はいいけど……?」


「王立魔道師養錬所(アカデミー)からの同級生で、執務室の同期で、今度は依巫の召喚者同士って……仲良すぎ。」

 (うらや)ましいよと言わんばかりの言い様だけど



 ちょっと待て。



「召喚者同士って?まさか?」


 まさか、まさか……


「あれ?聞いてないのか?依巫の召喚者、ロニーが選ばれたんだ。」


 ガタッ


「聞いてない。俺は、聞いてないぞ!」


「ロニ―――――――――!」




 そう叫びながら、俺はテラスを飛び出して走った。




「聞いてなかったのか……余計な事言っちゃったかな?」


 王子の(つぶや)きは、俺の耳には届かなかった。




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