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巫女と依巫  作者: 若宮 不二
第1章
20/49

20話 慣れない事をすると 2 ~sideシード

 

 俺は、女子を甘く見ていたのかも知れない……



 ロニーに教えてもらった店は、ことごとく 仕事帰りの女子で(あふ)れ返っていた。


 しかも


(選べない……)


 色とりどりの菓子は、どれも綺麗なのだが、普段から甘いものを あまり食べない俺には 見た目からの味の予想は、全く不可能だった。


 しかも、残り少ない菓子に対する彼女達の情熱は凄まじく、俺は店員に選んでもらって ようやく1箱手に入れることが出来た。


 美しい包装紙で包まれたソレは(菓子の名前など忘れてしまった) 

 ピンクで光沢のあるリボンが掛けられ、ご丁寧に小さな造花まで添えられている。


 よくもまあ、食べる前に捨ててしまうような物に凝るものだ、

 とあきれる反面、

 こんな綺麗でおいしそうな物を渡されれば、女の子が つい嬉しくなる気持ちも解る気がした。


(ユキハも喜んでくれるかな? とりあえずはロニーに感謝だな。)


 喜んでくれるといい。

 前回泣かせたっきり4日会っていない。


 ユキハは俺が知っている女達とは、まるでタイプが違うので どういう態度で接すればいいのか、いまひとつ自信が持てない。


 ユキハの泣き顔は、なぜか俺に痛烈な打撃を残していた。



 今日もまた、泣かれたら……



(いやいや。泣くような材料はないぞ。)

 4日経てば、気持ちも落ち着いてて いい頃だろうし……

(今日は、大事な話もしないといけないし!)



 気を取り直す。


 店を梯子(はしご)して、すっかり時間を()ってしまった。

 俺はあまり遅くなる前に、ユキハの元へ着こうと道を急いだ。





 その時。


「ウィル? ウィルじゃない?」


 呼ばれた方を 振り向くと

 声をかけてきたのは、従妹(いとこ)のフロリアだった。

 四つ角の中央にある噴水のそばで、数人の女友達と一緒のようだ。



「……ああ、フロリア。 久しぶりだね。」


 急いでいたが、無視もできず挨拶(あいさつ)()わす。


「ええ。こんなに会わないのって、初めてじゃないかしら? もう3ヶ月よ!」

 フロリアは両手に花束を抱えて、満面の笑みを浮かべた。

 まるで花がほころぶ様だ。


 美人で華やかな雰囲気のフロリアに、自然と周囲の男達の目が集まる。


「フロリア、すごい花束だね。」


 何かあるのだろうか? すごく機嫌がいい。

 俺も彼女の笑顔に()られて 少し笑顔になる。


「そうでしょう? ねぇ。ウィル……おば様から何も聞いてない?」


 フロリアが上目遣(うわめづか)いに、チロリと俺を見上げる。

 ピンクの可愛いドレスの胸元が少し広くて、目の()り場に困る。


(何だろう? 何かあったかな?……記憶にない)

 俺が何も言えないまま 突っ立っていると


「わたし、魔道府の研修生に選ばれたの! すごいでしょ? 」


 “えっへん”と聞こえてきそうな得意げな顔で 誇らしげにフロリアが言い、形のいい胸を張る。


(ああ。そんな事、母さんが言ってた気がするなぁ。)


 召喚者に決定してから、いろいろ忙しくて家族の事なんて 気にする暇がなかった。


 花束はお祝いで(もら)ったのか?

 頭の中で、完全にスルーしてた……悪い事をしたな。


「おめでとう! すごいな! フロリアがんばったんだね。」

 お祝いを贈れなかった俺は、言葉だけでもと、心から祝福した。



 魔道府の研修生は狭き門だ。

 フロリアが研修生に選ばれる程、優秀だとは知らなかった。

 あの小さかったフロリアは、王立魔道師養錬所(アカデミー)で、よほど頑張ったんだろう。



「ありがとう、ウィル。 ウィルにそう言って貰うのが、一番嬉しい!!」

 フロリアが、頬を紅潮(こうちょう)させて叫ぶ


「執務室に配属されたらいいのになぁ。 そうしたら、一緒に仕事できるのに……」

 うっとり、夢見るように言うので


「ははは、執務室は忙しいよ?」

 現実も見るように言っておく。

 実際、過酷と言ってしまっても いいだろう。

 だから、今 若い女は執務室にはいない。



「ごめん……フロリア、そろそろ……」

 フロリアの友人が申し訳なさそうに声をかける。


「あっ! もう時間? ウィルごめんなさい、わたし行かなきゃ。 教授が祝賀会をしてくださるの!」


「こっちこそ、悪かったね。 もう俺も行くよ。」

(俺も、ユキハの元へ急いでいるんだ。)


 そう言って、俺は なにげなく手に持った菓子の箱を振ってしまった。



 フロリアの視線が箱に集中する。



「ウィル!ひょっとして、それっ!」



(しまった!)


 獲物を見つけたフロリアは、まるで女豹(めひょう)だ。

 しなやかに、確実に獲物(えもの)(ねら)う……

 俺を含め、俺の兄弟達は『小さくて可愛い従妹』という この女豹に連戦連敗し続けている。

 俺は嫌な流れに つい言葉がにごる。


「ああ、そう、これは……(ユキハに持って行くお菓子なんだ)」


 大事な祝い事を忘れていた罪悪感もあって、ズバッと本当の事が言えない……



 フロリアのエメラルド色をした綺麗な目に、ブワっと急に 涙が浮かぶ。


(何? どうした?)


「ウィル、ありがとう! とっても嬉しい! わたしがそこのお店のお菓子が好きって知ってたんだ……」


「え?」

(何? この展開……っ! フロリア、ちょっと待ってくれっ!)








 気が付けば、ユキハの菓子はフロリアの手にあって……


 フロリアの、感激でうるうるした瞳を見てしまっては、違うとは言えず……


 結局、俺の手の中は空で


 フロリアは自慢の金髪巻き毛を優雅に揺らして、

 俺に「またね!」と満足げな笑顔で手を振ると、友達と会場へ行ってしまった。



 一体、何が起こったのだろう……



 呆然(ぼうぜん)とする俺に、夜を告げる神殿の鐘の音が(むな)しく響いた。








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