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巫女と依巫  作者: 若宮 不二
第1章
17/49

17話 依巫の資質

やっと、らしい話が出てきました。

 

 昼、シーウェルドがユキハに、会いに来た。


 ライアがユキハにその旨を伝えると

「ごめんなさい。もう少し 一人で考えたい」

 と細い声で答えがあった。


 彼は何か言いたそうだったが、口を真一文字に引き締めると

「ユキハのこと、宜しくお願いします」と頭を下げて帰って行った。

 おそらく、どうしても気になって 昼休みに様子を見に来たんだろう……


 ライアは、彼が身内以外で こんな風に感情を表に出すのを初めて見た。


(やはり、召喚した者としての責任かしら?)

(それとも、やっぱりユキハ様は彼にとっての、特別(・・)な人なのかしら?)


 そんな事を考えながら、ライアは部屋にユキハの昼食を運び入れた。





 昼遅く。

 昼食の食器を下げに部屋に入ると、テーブルには空になった食器が置かれていた。


(よかった。 食べれたのね。 食事が取れたら、一安心だわ)


 ベッドのユキハ様を(のぞ)くと、よく眠っているようだった。

 その痛々しくも、安らかな寝顔に ライアは微笑みかけて

 食器をを下げようと、背を向けた瞬間……



 ゾクリ



 背中に悪寒が走り、全身に鳥肌が立っていく。

 息が白くなるほど、気温が下がる。


 感じるのは禍々(まがまが)しいほどの霊気(れいき)

 いや、この神々(こうごう)しさは神気(しんき)と言った方が的確だろうか……



(何?コレ……)


(おそ)ろしくて振り返れない!)


 しかし、その神気の出所は唯一つなのである。

 目を()らしていても(らち)があかない。



 ライアは 意を決して振り返る。



 ベッドに横たわるユキハの目が、ゆっくり開いた。


(!!   金色の瞳!!)


 薄暗い室内でも、ユキハの瞳の色の変化は明確に見て取れた。

 金色というだけでなく、(ほの)かに輝きを放っているようだった。


 その美しくも(おそ)ろしい目が、つと ライアを見つめた。


 目が合った瞬間、

 ライアは全身をピンで留められた標本の蝶のようにピクリとも動けなくなった。


 無理に動けば、引き裂かれるような……

 そんなピリピリと張り詰めた緊張の中


 ユキハの姿を借りた『何か』が、声を発した。




戦神(いくさがみ)本柱(ほんばしら)を、呼び出してはならない。』




 一言だった。



 ユキハの口から少年の様な声が発せられ、ユキハの目が閉じられると、ライアの金縛りは解け、空気も元に戻った。


 ライアはその場に崩れ落ち、しばらく呆然としていたが、はっと気が付きユキハの様子を確かめた。


 その目は閉じられ、ユキハは何事も無かったように、寝息を立てている。


 ライアは無言で部屋のドアを開け、外で警備をしている衛兵に尋ねた。

「何か、変わったことを感じませんでしたか?」


 衛兵の答えは、「普段通りで何も無い」ということで。逆に不審がられた。



(一体、どういう事かしら?)



 ライアにも(はか)りかねる問題である。

 どうしたものかと思案していると


「…………んん。」

 ユキハの声がかすかにした。


 ベッドに駆け寄ると、様子がおかしい。

 額に手を当てると、焼けるように熱い。



(神気に当てられたんだわ!)



 次元の違う存在を、身体の中に入れたのだ。

 しかも、かなり高位の神のようだった。


 ライアの見たところ、ユキハの魂はなかなか清らかだと感じていたが、精進潔斎(しょうじんけっさい)もせずいきなり降りるのは、身体に負担が掛かる。

 魂と体は繋がっているからだ。


 150年前でも、依巫(よりまし)は7日~3日の精進潔斎(しょうじんけっさい)を行い、その後、神を降ろしたとされる。

 神の降臨は、簡単に行うべきものではないのだ。


 たとえ一時でも中身が神になれば、体の(けが)れは体内に留まれずに顕在化(けんざいか)する。

 人としては問題の無い日々のささいな(けが)れも、神には許されないものだからだ。


 その(けが)れが熱となって現れたのだとライアは思った。

 さすがに専門外なので、急ぎサリエスを呼びに行かせ、取りあえずは 部屋に備え付けの冷蔵庫の氷で体を冷やす。




(こんな形で依巫であることが証明されるなんて……)



 この事が評議会の耳に入れば、新たな召喚は中止されるかもしれない。

 体力の無いユキハに戦神(いくさがみ)を降ろすなど……体が()たない。


 王は、依巫(よりまし)の体の事など意に介さない。

 国益の前では異世界人の一人や二人壊れようと些細な事柄である。

 150年前も、現在も。


 巧妙(こうみょう)隠蔽(いんぺい)されているが150年前の大戦では依巫が多数使われた。

 ライアの夫が歴史の研究者で、大戦の記録をまとめようとしていたため、偶然にも彼女の知るところとなったのだが……

 その夫 ギルバートも事故で亡くなった。

 それが果たして事故だったのか、そうでないのかを知る手立てを彼女は持たない。

 ただ、ギルバートはずっと

「召喚した女性(ひと)を戦争の道具にしてはいけない。この世界は、いつか手痛いしっぺ返しに遭うことになる。事実を(かく)さず後世に伝えなくては……」とライアに言っていた。

 ライアは、夫の遺志(いし)()ぎたいと思った。

 自分なりの方法ではあるが……

 それに、歴史や難しい事は解らなくても

(異世界の人間だからといって…… 女を何だと思っているの?!) 

(男の道具じゃないのよ?)

 と、ライアは純粋に思う。


 この思いがあったから、女官長という立場であるにも関わらず、ユキハの世話係に(なか)ば強引になったのだが……



(よくよく考えて動かなければ……)


 ライアは、いつになく慎重に行動しようと心に決めた。




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