16話 遠い日の記憶 ~side雪羽
記憶の中のお兄ちゃんは、いつも やさしくて……
あたしは泣きながら昔のことを思い出していた。
ずっと昔。
まだ、父さんが家にいた頃。
あの頃、よく泣いてた。
学校で同じクラスの男子に
「でっかい目。気持ち悪い。ギョロ目って言おうゼ。」って変なあだ名を付けられて……
みんな面白がって、はやし立てられて……
学校の帰り道、神社の境内にあるブランコで泣いてたっけ。
裏手に隠すように木に吊られていて、
誰からも見られないから そこで泣くようにしていた。
あのとき、慰めてくれたお兄ちゃん……
名前なんだったっけ?
思い出せないなぁ……
あたしのこと『ゆき』って呼んでた。
「ゆきは強い子だから、大丈夫。辛い目にあうほど、ゆきはもっと強くなれるんだよ。」
変な慰め方…… その時もそう思ったけど、下手な同情より、本当の様な気がしてた。
顔、よく思い出せない。
いつも夕方で暗かったし、ブランコで背中を押しててくれてたから、顔はあまり見なかったかなぁ。
会えば分かるんだろうか……?
覚えているのは、声。
お兄ちゃんの声。
安心するの。
大丈夫って言われると、本当に大丈夫になるの。
何度も慰めて貰ったけど、
ある日から、お兄ちゃんは来なくなって、
何年も会ってない。
お兄ちゃん もう忘れちゃったかな?
あたしなんかと居ても、楽しくなかったんだろうね。
お兄ちゃんが来なくなって、あたしも神社へ行くことを止めた。
お父さんが出て行って、泣いている暇もない位、追い詰められたから。
なんで、今 思い出したんだろう?
ああ、泣いてるからだった……
大丈夫って聞きたかったからかな?
ああ……もうそろそろ、泣き止まないと。
でも、もうちょっとだけ泣きたい。
今まで、なんとかやってきたんだけど、少し疲れちゃった。
大丈夫、泣き止んだら 元の雪羽に戻る。
そして あたしは強くなる。
だから、もう少しだけ……
やっと、新しい登場人物が?