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巫女と依巫  作者: 若宮 不二
第1章
14/49

14話 老師

シードの師匠登場です。

 

「お師様、起きておられますか?」

 誰かが、遠慮がちに部屋のノッカーを打つ。


「シーウェルドか。珍しい」

 部屋の主であるザンバルデアは、小声で呟いた。


「起きておる。入りなさい」

 今度はシーウェルドに聞こえる声を出し、指先を軽く動かした。 遠隔魔法で扉の鍵を開錠したのだ。



 シーウェルドは自分の師匠であり、王立魔道府の最古参である上級魔道師ザンバルデアの研究室兼居室のドアを開けた。

 ザンバルデアの部屋は古い本が所狭しと積まれていて、入ってすぐの魔方陣用のスペースを除いては本に侵食されている感じだ。

 こんなに本があるのに、ザンバルデアはどこに何があるかを完璧に把握している。

 部屋は一見雑然としているが、本人だけに解る一定の法則があるらしい。


 ザンバルデアは 左奥の中二階の巨大な机で書き物をしている手を止めた。


「こんな遅くに……申し訳ありません」

 シーウェルドが頭を下げる。


「よいよい。今、茶にしようと思っとったんじゃ」

 ザンバルデアは、そう言って書き物を軽く片付けると、席を立った。


 シーウェルドに 掛けるよう椅子を指差し、ザンバルデアは自ら茶の用意をして

 大き目のカップに注ぎ、彼に差し出した。

 そして自分は、愛用のカップにソーサー、砂糖漬けのジャスミンを添えて

 机に戻ると、長年使い込んでザンバルデアの体に馴染んだ これまた大きな椅子に、どっかりと座った。


 ジャスミンをカップに入れてかき混ぜながら


「召喚のことはサリエスらから聞いておる。お前にとっては不本意な結果だったじゃろう」


 いたわるような言葉に、ザンバルデアのやさしさが見える。


「いえ。 それより、お師様、私はこれからどうしたらいいのでしょう……」


「何をじゃ?」


依巫(よりまし)の事です。」

「今、泣かせてしまいました。

 客室(ゲストルーム)は長官に張られているんでしたね。彼女との話は筒抜けでした。

 長官の言葉に、俺は反論も何も出来なかった……


 情けないです。


 はぁ……


 俺は、依巫(よりまし)を召喚すること理解したつもりで 全然わかってなかったようです。

 術式の事ばかり考えていて……後の事とか、ましてや依巫(よりまし)の気持ちなんて考えてなかった。


 召喚の儀の前、お師様はこれから先の俺の人生を依巫に捧げる覚悟はあるかと尋ねられました。

 召喚の魔方陣を使うことは、その身に呪いを受けるに等しいことだ、今までの自分ではいられぬとも。そして、己の気持ちと、国家の命令とに心引き裂かれるかもと言われました。


 その本当の意味が少し解ったような気がします」



 シーウェルドは湯気の上がる飴色の茶を見つめながら言った。



 ザンバルデアは 冬の海のような暗く淀んだ色の蒼い瞳に、ちらりと好奇心の光を横切らせて口を開いた。


「依巫に()うて、己の心境に 変化でもあったかの?」


「はい。とても。

 なぜ、自分中にこのような感情が湧くのか理解できませんが……

 出逢って数日の、しかも年端もいかぬ少女にです。

 依巫の何かがそうさせているのでしょうか?」



「説明は以前にしたはずじゃが? 

 神話・魔方陣・詠唱する呪文、全ての意味を理解するようにも。

 たとえ出世の欲に目が眩んでおったとしても、もうちょっと理解と覚悟を決めておるかと思っとったが……

 やはり、心の部分は理解出来ておらんかったか……


 当たり前かもしれんがの。 


 恋もしたことのない者に、恋に墜ち、心を奪われる感覚を説明したところで理解などできんもんじゃ」



(もうちょっと自分の頭でどうにかすると思っとったが、早々に音を上げおって)



 ザンバルデアは軽く溜息をつくと、ジャスミンの香りのする茶を一口飲んで、フッと口元をゆるめた。


「じゃが、(わし)は嬉しくもある。

 やっとお前の運命の相手に会えたことと、その女にちゃんと惚れる心を持っておったことにな」


 と言い、微笑んだ。

 やはり弟子はかわいいのだ。


 シーウェルドは上級魔道師になるために、日々勉強と訓練を重ね、またなってからも、術の研鑽に血の滲むような努力を重ねていた。


 大多数には天才だと誤解されているが、実は努力の人だった。


 まあ、シーウェルド本人が、あえて誤解を解く風でもなかったので それを知るのは、ごく(わず)かな人間だけなのだが……


 年頃の魔道師達が恋愛に花を咲かせていても、26になるこの年まで恋愛に興味を示さず、ひたすら己の為、貧しい実家を養うために出世を目指す。

(聞くところによると、修羅場もあった様だが、本人は我関せずで何時も通り過ごしていた)


 ザンバルデアは、そんなシーウェルドに もっと人生を楽しんで欲しかった。

 愛し愛される喜びを味わって欲しかった。

 たとえ大きな戦禍の影がアースリンドを覆っても……いや、そんな時代だからこそか。


 しかし、依巫召喚の話が持ち上がり、召喚する魔道師候補筆頭にシーウェルドの名が挙がったときには反対した。


 その愛は過酷過ぎると……


 しかし、出世を望むシーウェルドに押し切られる形で決定してしまった。

 その結果、思わぬ事態になったのだが、シーウェルドにとっては喜ぶべきことだと、サンバルデアは思う。

 シーウェルドの出世は遠のくが、愛するものが出来れば、それはシーウェルドの人生にとって大きな恵みをもたらすだろう。


 新たな依巫と召喚者の問題は別にして、だが。




 ザンバルデアはもう一口、茶で口を潤すと


「では、不肖の弟子にもう一度、最初からとっくりと説明してやろう」


 と、長い説明を始めた。




シード君、いろんな人に溜息つかれていますね・・・


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