10話 呼び方 ~side雪羽
甘くなりました。
軽めの昼食を取って お茶を飲んでいると、レスコスさんが来た。
昼休みに、顔を見に寄ってくれたらしい。
あのホラーな格好を見られなくて良かった。
今は、青色と白の細かいストライプの生地(うすい水色に見える)の
さっぱりした飾り気のないワンピースを着ている。
これが似合うかどうかは別にして、人に恐怖を与える事は無いだろう。
(ライアさん、ナイスなセレクトです!)
着替えるときに傷跡を見たけど、すごく薄くなっていた!
何回かしないと、本当には消えないそうだけど、これでも十分ましになったよ!
(もぉ!感謝だよ~!)
純粋に、嬉しい。
コレに関しては、心底、こっち来て良かったと思える。
「ありがとうございます」ってライアさんに言ったら、
「当然の事ですわ。完全に消えるまでしましょうね」と微笑まれた。
(当然なのかぁ。あたしにとっては、すごい事なんだけどな)
アースリンドの基準は分からないから、お言葉に甘えさせてもらいます。
部屋に来たレスコスさんは、今日は昨日と違う格好をしていた。
フード付きマントは無しで、黒いガクラン?みたいな詰襟っぽいのを着ていた。
神父さんの服の方が近いかも・・・
ズボンも黒、黒の皮ブーツを履いてる。 聞いてみると、こっちが普通なんだそうだ。
昨日はたまたま仕事の都合で着ていたらしい。
あっちが正装?
こっちはサラリーマンのスーツみたいなもんかなと、勝手に解釈した。
レスコスさんは、お茶を飲みながら この世界の色々なことを あたしに話してくれた。
この世界も1年365日で同じペースで時間が流れているらしいとか
巫女も依巫も、元の世界に還り帰せるとか
(浦島太郎には、ならないって訳ね)
(ちゃんと、帰れるんだ・・・)
昔にいっぱい女の人が召喚されて、この国が気に入って この世界で暮らしてたこと。
その子孫しか、この世界にはいない事。
レスコスさんは話してみると、中々気さくで、いい人だった。
話し易かったし。
(美形で、性格もいいから モテるだろうな~)
などと、なんとなく考えていたら
「堅苦しいから、名前で呼んでくれないか?」
などと難易度の高い事を 言われてしまった……
ファーストネーム呼び捨てはちょっと……
刺激が強すぎます。
(ええっと……なんて名前だっけ? 記憶力は良い方なんだけどな……長いし覚え難いんだよね)
「シ……シー……ウェルド……さん?」
(長い。舌噛みそう。合ってるのか?)
「シーウェルド」
(合ってたか。)
「じゃ、シードさん」
(ちょっと略してもいい? でも、年上なのでさん付けでお願いします……)
「え?」
(ちょっと びっくりしてる? やっぱ、失礼か……)
(そういえば、機関車トー〇スの鉄道会社オーナーもいちいち『トップハム〇ット卿』って呼ばれてたな)
(アメリカ人以外は愛称で呼ばないのか?ハリウッド物しか良く知らないから、会ってすぐにも略すと思ってたけど違うのか?)
(英語の教科書では、ジョンとかマイクとかボブとか 短かったよ?)
「長いし、呼びにくいので……」
(言い訳してみた。)
ああ~ 判った。って顔をする。
(こっちでは やっぱり長いまま呼ぶんですか?)
微妙な間が開いて
レルコスさんが、にって笑って
「さんは無しで。シードって呼んで?」
「俺もユキハって呼んでるから」
(殺人的笑顔を浮かべて言った! 悩殺されます! まぶしいデス……美形の笑顔は眩しくて耐えられません!)
(ううううう……ごめんなさい、抵抗なんてできません。 呼びます、呼ばせて頂きます。 目がやられるので、そんな笑顔を向けないで下さい……)
(ええ、そりゃもう、あたしなんて、勿論呼び捨てで結構です。)
「……ハイ。 では……シード……」
「よろしく、ユキハ」
(何の挨拶だよ。コレ……)
そして、シードはご機嫌で帰って行った。意味不明。
あたしは、なんだか疲れて 午後を丸々昼寝に 使ってしまった。
前回に引き続き、眠り落ちです。すみません。
雪羽も、他にすることもないですし、今まで好きに眠ってもいい環境に無かったもので『寝たいときに眠る』を ただいま満喫中です。