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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(15)賢者の石㉒

冬を越え、春が来て、研鑽の日々が約7か月続き、いよいよ魔法使いの資格試験が訪れた。

仕事と勉強の両立は、相当に生活を切り詰めて頑張ったもののいよいよ厳しくなったところで、両親に多大に支援をしてもらった。

情けないことだったが、その頃にはもう仕方がないと腹が座っていた。

もっとも、カレンが奮闘している間も物価高騰の流れは止まらず、新聞には連日休廃業の記事が載り、バーミアの商人街にも、看板を降ろした店がぽつぽつと現れるようになった。

そんな状況で、娘の我が儘に支出させていることが心苦しく、カレンは、今回で絶対に受かりたいという思いを強くした。


職人組合への虚偽申告は、カレンの祈りが天に通じたのか、水面下で何か行われている可能性は否定できないにせよ、カレン本人への追加調査などは行われなかった。

新聞によれば、未申告または内容不十分な職人が約2割いて、"埋め作業"に時間がかかっていること、一部の反抗的な職人に対してはとうとう関係資料の押収という実力行使に出る事件も報じられていた。

資料の押収と言っても、自分の魔法を見える形で纏めている者などいないだろうから、仕事道具を持って行っているのだろう。

職人の魂とも相棒とも言える道具をさらうなど言語道断であり、どうせ押収しても道具から魔法の内容など分かりようがないのだから、返して欲しければ申告をせよという間接強制にしか使えまい。

ただ、道具を取り上げられれば仕事にならず、兵糧攻めにされた職人は喋るか廃業するしかない。

職人の廃業数は確実に増加しているが、少なくとも紙上では、他業種における廃業も同じ傾向であり、職人に得意な事情ではない、と報じられていた。

世間で職人への同情論が本当に少ないのか、敢えて書かないといういつものやり口なのかは分からないが、いずれこの国では、職人によるものづくりは先細りの未来が見えていた。



魔法使いの試験は、まず筆記で振るい落とし、通過者に実技を実施するという構成になっていた。

筆記の内容が、歴史や制度の割合が多いせいもあって、筆記が芳しくなくとも、実技が優秀な者に魔法使いの門戸を閉ざすという批判がされているが、試験官の負担を考慮すると足切りはやむを得ず、ということで判断が変更されたことはなかった。

筆記は会場に大勢を詰め込んで一斉に実施できるが、実技は1人ずつかつ時間がかかることから、カレン自身は仕方のないことだと考えていた。


今回の受験者はがどれくらいいるかは知らないが、会場になっている州都の文化会館は、200人は入るところにぎっちりと机が並べられ、空席なく人が座っていた。

ここにいる全員が魔法使いを目指しているのか、とカレンは怖気づいたが、目指しているのは私も同じだろうと深呼吸をして気力を呼び込み、配られた試験問題に取りかかった。


結果が通知されるまでの時間は、実技の準備をして過ごした。

仕事では、頭に浮かんだイメージを書き出せるだけ書き出し、言葉を整えて、『概念の型』を仕上げるのに、やり直しは発生しても2回、ここ数年は1回で済んでいた。

ところが、今回は納得の行く仕上がりが得られないまま、もう21回目の試作に突入していた。

イメージ通りの銀色が現れないという見た目の問題から、履いて魔法を試すと、靴だけが移動したり、ドアを通り抜けられない、思った場所に行けないなどの機能上のトラブルまで、何かしらの失敗がその都度発生した。

イメージが歪んでいるのか、絶対受からなければという気負いが鍋に雑念として混ざるのか、原因がなかなか掴めないでいた。

瞬間移動の機構を魔法として実現するのが難しいことは間違いなく影響しており、現に見えている場所への移動すらなかなか正確にというわけにはいかなかった。

履いているカレン自身も自らの魔法を流し込むため、そのコントロールが悪い可能性も除外できず、ものづくりを仕事とし始めてからは最大の苦戦を強いられていた。

試行錯誤には慣れていたが、試験の、自分のためのものづくりと意識しすぎて、仕事とは別な力が入ってしまっているのか、どの部分に手を付ければいいのかうまく勘が働かない。

カレンは仕事の数を減らしたせいで腕が落ちたのだろうかと落ち込みながら、1試作ごとに、全作業を1段階ずつ切り分けて慎重に粗を探し、修正して、再度試す。

鍋に使う例の液体も、物価高と収入の減少を考慮すると、材料費はもはや安くない。

失敗すればするほど費用も嵩んでいく。


焦るな、と失敗のたびにカレンは自分に言い聞かせた。

魔法で最も大切なものは集中力だ、鍋の作業だけではない、アイディアを絞る時から、呪文を唱え終わるまでそれぞれの段階での集中が必要だ。

本気度が足りないのかもしれない、とカレンは顔をごしごしと擦った。

仕事では、客の要求に完璧に応えるために、持てる技術を100%出すつもりで取り組んでいる。

この、仕事ではないものづくりの客は自分だ、自分のものだからいいかとレベルを下げず、むしろ120%まで振り絞らなければ未来は切り開けない。

カレンは今回の試験を絶対に通過し、魔法使いにならなければならない。

筆記の結果を待つ間、通過すればすぐにでも到来する実技までの間、カレンは焦るなという自分の声の叱咤を受けながら、銀の靴を魔道具として完成させるべく、こつこつと検討と試行を続けた。


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