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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(15)賢者の石㉑

それは、力を持つ銀の靴、とされていた。

爪先が尖った銀の靴は、以前カレンが手がけたガラスの靴と同様、誰の足にもぴったり合うサイズに自在に伸縮するようにできており、それだけではなく、踵を3回打ち合わせて行先を唱えると世界中のどこへでも一瞬で移動できるという強力な魔法を宿すものであった。

外観の瀟洒しょうしゃに指定はなく、伸縮の魔法は以前かけたことがある、魔力を通して使うタイプの道具だが試験の課題として作るのであればカレンに合わせれば良いため、それらは問題なかったが、主たる機能である瞬間移動のところは考え始める前の段階で、成功するイメージが一切浮かんで来ない難題だった。

触れる者を一緒に移動させる魔法は、それこそ絨毯で既に実現されていたが、身に着けている者を瞬間移動させる道具が、今までこの国で存在していただろうかとカレンは唸った。

道具だけを移動させるなら、例えばボールを投げる、矢を射るなど、手から離れる際に力を加えれば物体が移動する原理に従えば、目指す地点まで移動ができるかどうかはともかく、魔法を用いずとも実現が可能である。

しかし触れている者ごと、瞬間的に、目指す地点までとなると、それは専ら魔法の責任分野に入って来る。

依頼の内容だけでは、イメージを組み上げるのには圧倒的に不足があるため、その逸話とやらにも目を通さなければと、カレンは手紙を持ち、早速図書館に行って本を借り出した。


カレンは、無事見つけられた本を、筆記試験の勉強と仕事との合間に読み込んで、イメージを高めた。

逸話とは、海を隔てた大陸で書かれた、比較的新しい物語であった。

竜巻で家ごと飛ばされた少女が、故郷に帰るため、道中で出会った仲間達とともに旅をするという物語の中には、銀の靴は、依頼の手紙通り、非常に強力な魔法を有する品という記述があるだけで、その詳細、瞬間移動以外の魔法については何も書かれていない。

読み手の想像に任せたのだろうが、イメージのヒントが欲しいカレンとしては困りどころだと、呻きながら少しずつイメージを膨らませようと試みたが


履いている者が潰されても靴だけは無事に綺麗に残る

歩くと靴音高らかに陽気を持ち主に移す

踵を打ち合わせて帰りたいと強く望むと、風の音を聞きながら3歩進んだ先で、突如として目的地に足は降りる


捻り出せたのはこのくらいで、願望が瞬間移動の結果を引き寄せるところはまだ欠けている。

どうしたものかと悩みながら本をもう一周してみると、瞬間移動の魔法の存在を主人公の少女が知らず、使わずにいたことで、旅の仲間の願望を叶える結果に繋がったという記述で目が止まった。

靴の仕様ではなかったのでずっと読み流していたのだが、これはヒントになるかもしれない、と直感が働く。

物語の中では、靴は最初から強大な魔法を持つ道具として位置付けられている、しかしその内容はほとんどが秘されている、ならばそれを逆手に取って、詳細をカレンが自由に設定しても、イメージを壊さない。

少女が、頭脳と心と勇敢さを仲間のそれぞれの手中に収めさせ、旅の終わりに、仲間の役に立てた嬉しさと帰りたい思いを胸に、仲間達から後押しされて靴の魔法を使う。

カレンの場合は、実技の課題としての靴であり、仲間も冒険も存在しないゆえに、自分に置き換えてイメージ設定をしなければならないが、一旦この線でやってみようかとカレンはメモ作りを始めた。


それに平行して、ローズとともに首都まで靴を探しに行った。

既存の靴に付与するのか、一から作るのかはまだ定めていなかったが、いずれにせよイメージを膨らますには実物から刺激を受けなければ、カレンが"協力な魔法を宿していそうな靴"を思い浮かべるのは無理であり、そんなセンスも持ち合わせていなかった。

姉に頼むことはあっても逆は滅多にないローズは、靴屋周りに付き合ってくれるだけでいいんだけど、と遠慮するカレンをほぼ無視して、姉妹で行くビゼーリツアーを計画し、鼻息荒く姉をエスコートした。

どこで調べたのか、若い女性に話題の洒落た場所がルートには数多く盛り込まれ、靴屋は複数箇所組み込んであったため、ビゼーリに全く詳しくないカレンには文句は言えなかったが、人が非常に多く慣れない道を引っ張り回された。

財布は、三時のお茶を除いて、宿泊費も含めてカレン持ちであり、バーミアに帰り着いた時にはいろいろな意味で疲弊していたが、ローズが真剣に妥協なく靴選びに目を利かせてくれたおかげで、カレンが物語から受けたイメージぴったりの靴を手に入れることができた。


カレンは作業部屋で靴を手の中で回し、つぶさに眺めながら、難易度は上がるが試験なのだから一から作った方がいいだろうなと最終決定した。

試験会場にこの靴を持ち込んで、鍋にどぼんと落とし、そこから見た目は変わらないものを取り出すよりも、鍋に入れるものと出て来るものが異なっている方が明らかにインパクトがある。

そうすると革と、踵部分に使う木が必要になるとカレンはメモを取った。

素材屋には、仕事量を減らしたせいで訪れる機会はかなり減っていて、儲けを減らす一因になってしまっている後ろめたさがあったが、それでも必要なものは注文をしに行かなければならない。

いずれは、完全に足が遠のくことが分かっているため、親しくしてくれている店主を思うと申し訳なさと寂しさが募ったが、それらを噛み締めてカレンは前に進むしかなかった。



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