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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(15)賢者の石⑯

カレンは両親と向かい合って座り、とりあえず母が淹れた茶に口を付けていたが、


「それで相談って?その様子だと結婚、ではないね?」


と問われ、自分を奮い立たせて話し始めた。

先日査察を受けたこと、自分の魔法の一部に賢者の石と同じ材料を使うこと、その事実を申告せず嘘を言ったこと、申告内容の裏を取られて虚偽が気付かれればどんなペナルティを受けるか分からないが、いずれにせよ今まで通りの職人生活は続けられないだろうこと、かといって正直に話していれば今鼻息の荒い国に研究に参画させられて結局は同じ結果を招くだろうこと、という事実とカレンの考えとを行ったり来たりしながら説明し、この上は調べられる前に職人の仕事から離れるしかない、と一旦口を閉じた。


「離れてどうするんだ、転職か?」


カレンは膝の上で手をきつく握りしめてから、魔法使いになって国外に出ようと思っている、ただ職人の仕事を同じペースで続けながらでは試験の勉強が難しい、なので生活の支援を頼めないかと思って今日は帰って来た、と最後の方は声は小さくなっていった。

口に出すと、改めて何と厚かましい相談なのだろうと惨めな気持ちが胸に溢れた。

独りでやっていくと宣言して出て行ったのに、今更脛をかじらせて欲しいと言う娘の話をどう聞いたのか、父がまずふーんと長々と息を吐いてから、


「何点かあるんだが」


と口を開いた。


「その、職人組合に材料を調査されるのは確実なのか」

「分からない。組合は国の言う通りに動いてるだけだから。でもここまで国の行動を見てると、絶対に調査しないっては言えない」

「ペナルティの内容は。もう受けた人はいるのか」

「家に組合の人と警察に来られて、そこで揉めて暴れた人は連れていかれたって聞いた」

「警察も同行してるのか」

「うん、申告率を上げるための圧力だと思う」


「なるほど。それで魔法使いになって国外に出て、どんなふうに生活していくとかいうビジョンはあるのか」

「まだそこまでは考えられてない。合格するまでにそこは考えようかなって」


逃げるために国外へというところまでしか頭になかったが、父の言う通り魔法使いになった後の生活をあまりイメージしていなかったことに気が付く。

国外で職人を再開することを考えていると、今後は母から問いかけられた。


「バーミアの家はどうするの、引き払うの」

「それは、まだちゃんと計画立ててないけど、多分、そうする、かな」


カレンの希望はこのままバーミアで勉強をしたいと思うが、家賃の負荷が高いため、ポルトカリに戻って来るのを妥協点だと考えていた。


「魔法使いの勉強って、本当に仕事と両立できないの?仕事量を減らしたりしたら何とかならないの?」

「1件にかかる時間は減らせないかも。件数は、減らすとなると……内容を見て断ることになるなあ」


答えには曖昧さが混ざってしまった。

件数を減らすのではなく、ゼロにすることしか頭になかった。

仕事を選ぶことはあまりしたくなかった。

魔法の難易度で依頼料は変えていないため、収入額でふるいに掛ける意味はない。

そうすると手間がそれほどかからない案件を選ぶのが、時間を確保するためには賢いやり方になるが、カレンはそういう選定をするのはどうしても嫌だった。

布魔法のように技術的に無理など、カレンの恣意しいが一切入らない理由で断る分には良心は痛まないが、楽だからこれは引き受ける、工夫を考える時間が惜しいためこれは断ると振り分けることは、職人としてあまりに不誠実だとカレンは考えた。

だからといって、それを避けようとすれば仕事数は減らない。

ならばいっそのこと全部止めた方が、悩まずに時間を最大限に確保できる、そう思ったのだが、母の意見は違うようで、カレンは困惑した。


「断ればいいじゃない、寝ないで頑張らないとこなせない量は、そもそも多すぎるんじゃないの」

「いや、そうかもしれないけど、そういうわけにはさあ」

「忙しくてちょっとできません、って言っておけばいいのよ。どのみち魔法使いになったら職人の仕事はおしまいになるんでしょ。評判を気にする必要ないじゃないの」

「うーん、そうかなあ……」


同意を示さない娘に、父が腕を組みながら言った。


「いずれにせよ、バーミアに住んだまま生活費を全部支援というのはできないし、こっちに帰って来るとしても職人の仕事を全部止めてしまうのは反対だ。細々とでも続けながら勉強する方向で、計画を立てたらどうだ」


支援ができないと言われるのは想定はしていたが、実際にその言葉を耳にすると堪えた。

しかも、計画を変えろという提案をされるとは予想しておらず、また悩んで悩んだ果てにこれしかないと立てたものに口を出されると、カレンは反対されればすぐ引き下がるつもりだったのが、そうはできなくなった。


「いや、それは多分できない、気がする」

「まずやってみたらいいんじゃないのか。そもそも、できないと思うのは何でなんだ」

「仕事と勉強の両立は、私の実力的にできないよ」

「仕事の数を減らしてもか」


そもそも減らせない、減らす対応が煩わしいというのが本音だったが、カレンはそれを隠して頷いた。


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