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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(15)賢者の石⑬

返信は母からで、帰って来るのはいいがいつ帰って来るのか、泊まるのかどうかを尋ねるものだった。

カレンはほっとして、すぐに3日後の日付と泊まらない旨を書いて返事を出しに行った。

本当はすぐにでも出かけたかったが、実家に返信が着くのが明日であり、もし都合が悪ければその旨が返ってくるとすれば明後日ゆえ余裕を見た。

その余裕の間で、今受けている仕事を全て終わらせる又は目途を付けるつもりで、カレンは複数の『概念の型』作りに集中した。

不況ゆえなのか、賢者の石以外の新たな依頼は、国内からのものは以前のような活発さはなかった。

やはり潮時は潮時なのかもしれない、とカレンは感じ取りながら、もし職人を廃業するとなれば、オリバーにもその旨を伝えないと、と作業を中断して便箋に綴り始めたが、思い直してペンを止め、代わりに封筒に宛先と差出人名だけを記した。

両親に事情を告げる前に先んじるのは、順番が違う気がしたのだった。


カレンが、結婚など特段の理由なく両親のもとを離れて住んでいるのは、半分はカレンの早とちりのせいであった。

職人の仕事に就くとなれば誰にも気兼ねなく使える作業場所、もとい工房を確保しなければならない、既に活躍している職人は皆自らの工房を構えている、ゆえに独立しなければ、とこういう論筋だった。

場所をバーミアにしたのは、職人組合で空き工房として情報が出ていた家に、家賃が比較的安価だったので、これ、と飛び付いただけで、それまでバーミアを訪れたこともなかった。

ところが、家は何の変哲もない平屋で、しかも独りで住むには心持ち広かった。

また、工房は己の魔法の種類に合っていれば良く、独立した場所ではなく家の一角や庭の隅で済ませている者も多いというのは、後で知ったことだった。

カレンの魔法は、物書きができる机と、大きくて深い鍋をかけられる調理台があれば十分であり、しかも調理台は別に屋外の竈でも代用が利く。

また、一軒家に住むとなると、家賃の負担があるし、貸し家であっても維持管理に気を遣う。

下手に庭があるので、狭いとはいえ、手入れをしないでいると変な植物が勝手に育って混沌と化し、不便なことこの上なかった。

生活にかかる一切の作業と費用とが自分の肩に乗ってくることを、独り暮らしを始めてから知ったカレンは自分の見通しの甘さに、仕事がなかなか入らず余っていた時間の大部分が、後悔に使われていた。

家族に相談していれば、こういう苦労があると知った上で計画を立てられただろうに、どうも大事なことほど即決してしまう癖があった。

自立とは自力で全てを決め、その選択に責任を負うこと、と決めてかかっていたこともあって、職人になることも、決定してから報告して、両親に呆れられた。


今回、両親に話をしに行くのも、相談とは言いながら事後報告になってしまったと、カレンは罪悪感を覚えた。

今回はカレンが嘘を申告したことにより、選択肢は事実上1つになっていたが、それでもそれを選ぶことをカレンはまた独りで決めてから、後から両親に知らせるという順序になった。

しかも、自分の希望を成し遂げるためには両親の支援が必須という体たらくで、カレンが勝手に決めたことについて、両親に負担を求めるという不当を抱えて帰郷するのだ。


カレンは別に、両親とは不仲ではない。

職人になる、そのために別居独立する、そう宣言した時に、明確な反対はされなかったものの、職人を選んで食べて行けるのか、実績もないのに独居するのは早いのでは、と口々に懸念を示され、全部自力で何とかするので大丈夫、と啖呵を切って押し通した。

それから、実家には1度も帰っていない。

辛うじてある手紙の遣り取りにて、クリスマスは帰って来るのかという母の問いに、帰る資金がなかったり、次第に多忙になって時間が惜しかったりと、理由をその時々で変えながら今年はちょっと綴り続けた。

支援はできないと言われた時はどうしようか、とカレンはイメージ作りの手を止めた。

アスター家は普通の生活には困らないが裕福ではない。

父母ともに魔法利用者ではあったが、父は魔法と関わりのない仕事をしているし、母は在家庭であって、外で暮らしている娘の面倒を経済的に見る余裕はないのではないか。

カレンは今更ながら、自分の相談事、いや要求が無理難題な気がして来た。


どうしよう、やっぱり止めるか。

だが、止めると言ってもどこから止めればいいのだろう。


さいはもはや放り投げてしまって組合から国に渡っているだろう、取り戻すことはできないし、投げる前に時を戻すこともできない。

相談を止めるにも、両親には相談したい旨を送ってしまった。

それに、仕事については現状維持のまま魔法使いの勉強をするのでは、勉強に取れる時間が不足して直近の試験にはとても間に合わない。

それならば、魔法使いへの志自体を止めるのか、そう思ってカレンは身震いした。

国なのか職人組合なのかがある日この家にやって来て、何もかも知っていると仄めかし、賢者の石の研究のため助力と同行を願えますかと慇懃無礼に依頼を発する。

拒んでも拒まなくても、カレンは今までの生活は送れなくなる。

だからと言って、査察のあの時、材料を正直に申告することなどできなかったし、申告していればこんな猶予期間も得られなかった。

カレンは一頻り頭を抱えたが、やっぱり相談には行かないと今から送れば両親を混乱させてしまうことになるし、また実際に送ることもできず、予定通り3日後に帰郷することを選んだ。


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