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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(15)賢者の石⑧

ノッカーが3度鳴った。

新聞を広げるだけ広げていたカレンは、玄関外が見える窓から客の顔を確認し、2人のうち1人が警察であることを服装から確認した。

それから、今気づいたかのように「はーい」と天井目がけて返事をし、ドアの前で深く息を吐いてからノブを捻った。


「こんにちは、職人のカレン・アスターさんでいらっしゃいますか。ご連絡しておりました、職人組合のアクロイドと申します」


どこかで見覚えのある女性が、若干申し訳なさそうに挨拶をした。

その斜め後ろで、警官が踵を鳴らして「州警察のトールマンです」と敬礼をする。

カレンはどちらに向かうともなく「お世話様です」と会釈を返した。



集会での結論を受けて、カレンは組合に出頭した。

突然家に押し掛けられて、狼狽えた挙句対応を誤るのだけは絶対に避けたく、きちんと心の準備をして、自分から申告しに行った方が平常心を保てる。

実際、カレンの魔法が、『概念の型』を用いること、鍋を掻き回すという古風なやり方を採用していることは組合でも既に知っている内容であり、申告は短時間で終わった。

説明を終えるとカレンは、後日のチェックはどの部分について行うのかを確認した。

カレンの魔法は、イメージ作りをスタート地点とすると、鍋から完成品を取り出すゴールまで何日も、下手すると月単位で時間がかかる。

まさかその全体を確認するという愚かなことは、国にどこまで要求されているかは分からないが、たとえ組合でもやらないはずだ。

職員は案の定悩み、上役に相談をしに行ったが、「鍋のところだけ見せていただければ大丈夫です」と言いながら戻って来た。

カレンはほっとして、もうひと踏ん張りと口を開いた。


「ちなみに、チェックする時の魔法の材料代って、組合に負担していただけるんですか」

「あー、いや。その分は申し訳ないんですが、ちょっと」

「なら、訪問日程を事前にお知らせ願いたいです。鍋の作業は毎日発生するものではないので、そこに併せて来ていただかないと、持ち出しが出ちゃいます」

「ええ、いいかなあ……」


職員が再度立ちかけたところに、上役が歩み寄って来て、「いいですよ、分かりました。ただ、1週間前くらいにしか通知できませんので、そのつもりでいてください」と代わりに答えた。

カレンは分かりましたと素直に引き取った。

持ち出しのことなど本当は気にもしていなかったし、最初から自腹を切るつもりだった。

取引上の秘密を負っている職人が、完成品を依頼人より先に見せるはずはない。

立ち入ってのチェックをされるのなら、最初から見られても問題ないものを準備する、そのためのアポイント要求であり、要求を通すための組合への出頭でもあった。

しかし、そんなことも思い至らないとは、組合は、職人の尊厳すら忘れてしまったのだろうか。

帰り支度をするカレンに、上役が


「すみませんねえ、私達も国には逆らえなくて。皆様にはご不便をおかけしています」


と苦笑しながら丁寧に頭を下げた。

不可抗力と言いたいのだろうが、組合は職人の支援組織である以上、逆らう気がないの間違いじゃないのかと、カレンは曖昧に目礼を返した。



そのような経緯を経て、事前連絡があっての来訪は、組合職員1人、警察1人という最も穏当な組み合わせで行われた。

最初出頭を拒んだといえば拒んだが、不穏分子扱いはされなかったらしいと、カレンは密かに胸を撫で下ろしながら、2人を招き入れた。

組合職員のミス・アクロイドは、腰を低くして「お邪魔して済みません」と申し訳なさそうで、胸を張って直立しているミスター・トールマンと対照をなしていた。

邪魔だとは思っているのか、とはいもいいえも返さず、リビングのイスを勧めた。

査察者を客と呼ぶべきかどうかを迷ったカレンは、一応体裁だけでも繕った方がいいかとそうしてみたが、ミス・アクロイドは慌てて「あの、お構いなく」と手を振って辞退を示した。


「お時間を取っていただいているので、必要な確認をしたらすぐ失礼します」


ミスター・トールマンが「この後、回らなければならないところが何か所かあるのです」と言い添える。

査察が立て込んでいるとは醜悪な響きだなとカレンは思いながら、言葉に甘えてと2人を台所に案内した。


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