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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(15)賢者の石⑦

情勢は、まるで石が坂の上から転がるように悪化した。

バーミアでは、誰も組合へは出頭せず、期限経過後に組合の職員の訪問を受けた際は、丁寧に拒む、乱暴に追い返すなどの程度の差はあれど、催促にも応じた者はなかった。

程なくして、各地で組合での登録を期限まで行わず、9割がリスト化されておらず、今後督促を行っていく予定であるとの報道があった。

民意を、非協力者を責める方に誘導するつもりで、国が敢えて新聞に情報提供したのだろう、新聞も物価高騰を食い止めなければならない、その突破口として錬金術に期待がかかると論じ、錬金術についての週刊コラムを新たに設けるなど、さりげなく国を助ける動きをしている。

職人の9割が協力していないことが何を示すのか疑いもせず、職員側に取材もしないのかとうんざりしているところに、首都で、何度も督促を受けた職人が、組合職員に暴力を振るって逮捕される事件が起こった。

組合職員は骨折の重傷を負い、職人は取り成そうと駆け寄って来た近所の人をも殴ったというから、同情の余地はなかったのだが、これが国に口実を与える形になり、警察の同行が始まった。

組合職員1ないし2人に、警察1人、対応に苦慮すると思われる場合には2人以上が付き添い、職人の工房のドアを叩く。

家の主が戸口で組合職員に断りを述べている間、警察はその後ろに大人しく立っているが、組合職員が諦めかけるたのを見計らって、今度は警察が交代して説得に回る。

曰く、先般の事件をご存知でしょう、あれは命に別状はありませんでしたが、何か起こってからでは遅いのです、頂いた情報は警護の計画を立てる以外には決して使わないことになっておりますから、ご理解と御協力をいただけませんかねえ。

取り調べの専門家である警察に、穏やかなのは今のうちという声色で告げられ、委縮してリスト化に協力する者も次々と現れ始めた。

警察に来られたくないと組合に足を運ぶ者も出て来たが、偽りの登録を防ぐため、必ず目視で魔法の状況を確認して欲しいという"依頼"が国から新たに発せられ、結局警察に踏み込まれるケースも出て来て、後出しにも程があると激しい非難の声が上がったが、国はご理解とご協力をと繰り返すだけであった。


バーミアの職人達は、警察が出て来た時点で再度集結したが、誰も有効な対応を提案することはできなかった。

組合職員にいくら声高に拒否を主張しても、次に警察が出て来るのでは対応などありはしない、それがその場を占めた無言の意見だった。

話し合うだけ話し合い、意見はさまざま出たが、どれも尻すぼみになった。

警察にも非暴力で抗い続け、たとえ拘束されても態度を貫く道にももちろん進める。

しかし、そこまでして自分の魔法を守って何になるという葛藤は誰もが持っていた。

国に魔法の内容を提出しても、職人としての仕事ができなくなるわけではない。

また、仮に賢者の石について国から協力要請を受ければ、できるかどうかはともかく、その間の収入は保障される、仕事が途切れないかを日々心配することはなくなる。

身柄を拘束されその間仕事ができないとなれば、家族が路頭に迷うのだ。

あるいは、そうやって魂を売るならば、いっそのこと職人自体を廃業する選択も存在している。

不況下で求人がどんどん減っている中で、他の職人達に取られる前に思い切らないと、条件の良い職にありつけない。

皆同じ職人とは言えど、それぞれが異なる事情を持っており、警察に対する抵抗感も大小がある。

一致団結し、同じ対応を取ることはもはや困難だとして、各自の良心に委ねるという方策以外、どんな正解を導き出すことができるだろうか。

誰もが暗い表情で、集会を後にした。


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