(15)賢者の石⑥
反発は国中で起こった。
スタフィー州の組合は及び腰だったが、気概ある他州の組合がいくつも結束して遺憾の意を示し、首都とその近郊の職人は徒党を組んで国の担当機関に押しかけ、新聞で大々的に報道された。
国民の声は意外にも賛否両論のようだった。
職業上の秘密を暴くなんてという同情的な声もあったが、警護を受けられるなら逆に幸運ではないかと無関心な者もいた。
魔法利用者への妬みから、職人が我が儘を言っているという陰口もあるとされていた。
皆、明日は我が身かもしれないと何故思わないのだろう、カレンは記事を読みながら気落ちした。
今は偶然職人がターゲットになっているだけだ、一度歪んだ理屈が押し通れば、いくらでも別な矛先が作られると何故想像しないのか。
形勢必ずしも不利でないと見たらしい国は、皆が恐れていた通り、またうっすらと予感していた通り、対応を取り下げなかった。
一旦はまず、職人の氏名住所がリストとして保管されている各州の職人組合へ、期限まで赴いて、魔法の内容等を登録する形が取られた。
バーミアでは緊急集会後、内容伝達のため、役場の部屋を借り、急遽町中の職人達が招集された。
来られない又はいつも来ない者を除いた十数人が車座になったところで、集会の内容はカレンが説明させられた。
憤りと抗議とが次々に上がるのを最年長が宥め、特に話し合う必要もなく、バーミアの職人は組合へ出頭しないことが決まった。
「もし催促されたらどうすんだ」
「そんなの無視一択だろ。手紙が来ても捨てろよ」
「組合の奴らに家まで来られたら」
集会の時からずっと虫の居所が悪いベテランが「水でもぶっかけとけ」とテーブルの脚を蹴る。
「水はちょっと現実的じゃないな。バーミアでは皆断ることに決めました、って宣言しちゃっていい?」
「いいんじゃないのか。今日来てない奴にも根回ししないと」
「何生温いこと言ってんだ、水ぶっかけろ!」
「役場の備品を蹴るんじゃないよ。誰でもできる現実的な対策を考えんといかん」
最年長に注意されたベテランは不貞腐れて顔を背けた。
「じゃあ、組合へは行かない、催促は断る、と。その次はどうする」
「次は何をしてくるかね、奴ら」
「分からん。それは次弾が来たら考えようぞ」
「警察連れて来たらどうすっかね」
「……そこまでやるかあ?」
「普通はな。常識で考えればそこまではやんないはず。ただ、狂ってやがるから、あいつら」
出席者全員に沈黙が降りる。
やがて、最年長が音頭を取り、欠席者への伝達の割り振りを決めて散会になった。
誰も割り振られなったカレンは、とぼとぼと家路に着いた。
とりあえず当面の対応は地域で統一されたので、何も考えずそれに倣えばいいが、元々警護というお題目なのだから、国が警察というカードを切ってくるのは簡単だろう。
そういう"次弾"が飛んで来た時、自分達はどうするのか。
警察を連れて来られたのでは、バーミアは一枚岩にはなれないだろう、怖気づいて素直に魔法を曝け出してしまう者が出て来て当然だと思われた。
カレンは、職人の命を暴くのに警察まで使うのか、と思うと情けなくて涙が零れそうになった。
職人が職人として生き続けられるかどうかの正念場が不気味に近づいて来ている、奇しくもカレンが魔法使いに心揺れている時期に。
集中力が仕事の要なカレンは、こんな心情のままで依頼に手を付けるのは失敗のもとだったが、情勢の悪化とは無関係に、日々の生活は回り、また回さなければならない。
生きていくために、どんなに万全ではなくとも、引き受けた依頼は確実にこなす、職人であることを自ら放棄してはいけないと、カレンはとにかく仕事に集中した。




