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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(14)打ち出の小槌②

浮き立つ心が町の中心部を包む、冴えた空の下で行われる収穫祭は、例年通り温もり溢れる催しとなった。

良い匂いが鼻を擽る、振り向いた先には顔見知りの店主が、威勢良く呼び込みをしている。

炙られた肉が脂を落とし、もったいないと思う間もなく火が喜んで燃え上がる。

火傷すれすれで焼き栗を頬張る女の子達のそばを、今朝採って来られた晩生の栗を籠いっぱいに買い入れ重そうな主婦が過ぎていく。

男の子達は射的の店を賑わしている。

射的はいつも店が出ているが、今年は振ると大小の光の粒子が飛ぶように作られているおもちゃの杖で、見事光を当てた景品を得られるという新しい企画になっていて、店は並ぶ列ができるほど大盛況だった。

杖自体も景品に入っているし、隣の露店で値は張るが購入ができるという商売上手ぶりであった。

笑いさざめく声や誰かが何かを当てたのか賑やかになるベルの後ろでは、広場で奏でられている音楽が常に鳴っている。

踊りの披露もあるとかで、着飾った一団が緊張と興奮の面持ちで、広場を目指して駆けていった。

職人の露店に、交替で売り子として立つ役割も担ったカレンは、その寒そうな恰好に、早く踊って暖かくなれるといいなあとカレンが祈る気持ちで見送っていると、


「ねえねえこれなあに?」


と幼児の元気な声が響いた。


「これはね、こうやって振ると」


手のひらの上で振ってみせ、穴もないのに包装した飴が転がり出て来たのを見た幼児はきゃあと歓声を上げた。

結局、振ると小槌の中から転移して出て来る仕組みはそのままに、空になったら柄を取り外して飴を補充できる構造を追加して、永遠に飴を供給できる道具に仕立てた。

使用後オブジェにしかならないのでは実用性に欠けると思ったのは正解だったらしい。

後ろに立っていた両親から代金を受け取り、小槌を幼児に手渡すと、「となかいしゃん!」とさっそく振り回して飴を出そうとし、両親に取り上げられてぐずっている。

模様は南の国の図案ではなく、クリスマスに関連付けた。

中から飴が出て来る道具が端正な南の図案では、印象がちぐはぐだと思ったからだ。

売り上げの管理責任者として付いている役場の職員が話しかけて来る。


「いやあアスターさん、よく思い付きますねこういうの」

「いえ、元々のアイディアは私が考えたやつじゃないんです」

「そうなんですか?だとしてもすごい魔法だなあ、さすが造形屋さん」

「あ……ありがとうございます」


カレンは照れ隠しに商品を整列した。

露店には、カレン以外の手による遊戯物も売られている。


壁に御馳走の映像を投影してくれるマッチ

食べると声の高さが変わる、チョーク型の菓子

1回限定だが本当にスープが作れる石

必ず帽子だけ吹き飛ばせる葉の形をした扇

聞くと足踏みがしやすくなる笛


など、いつもは顰め面で己の仕事に向き合っている職人が、ここぞとばかりに遊び心を発揮した商品が並ぶ。

カレンを含めて食べ物に絡めたものが多いのは、身体が栄養を蓄えたい季節だからなのかと思わず微笑んだ。


「いいなあ。楽しくて前向きなお仕事ですよね、職人さんって」

「まあ、そんな時もありますね」


もちろんそういう場面ばかりではないが、突き詰めて言えばその通りだとカレンは本当は強く同意したかった。

そんな日常を捨てて別な道へ進む必要がどこにあるんだろう、再び湧き上がる疑問を誤魔化したくて、カレンは自分の小槌を手に取って振ってみる。

小槌の側面からではない、何もない空間から色とりどりの飴がぽんぽんと現れては手の中に落ちる。


「それにしても、役場の方は大変ですね。準備や段取りに手間がかかるでしょう」

「実はそうなんですよ、この時期は夜遅くまで、休日返上で駆け回っていて」

「本当にお疲れ様です、今日が終わったら休んで下さいね」

「ありがとうございます、ああお酒が飲みたい」

「ホットワインの屋台も出てましたね」

「いえ、私はこんな時でもビールが飲みたい」


カレンは吹き出しながらもう一度小槌を振ってみた。


(悩みがなくなりますように)


そう唱えながら振って現れるのは当然飴だけであって、今からでも元々の効果を持たせられないか挑戦してみようかなと、次の客に声をかけられるまでの間、薄暗い露店の天幕の下でカレンは考え続けた。


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