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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(13)聞き耳頭巾⑤

組合からの依頼だと、家族というよりは経済動物が円滑に生産をしてくれるように、という希望が勝っていたが、それを組み込んでしまうとメモの内容と噛み合わなくなって面倒なので、イメージ作りからは除くことにした。

なかなか良い言葉が思い浮かばないのは体調に関係なくいつものことであり、ただ今日は物理的に頭が痛い中でたどたどしく綴っていく。

本調子には程遠くともこのくらいなら及第点、というところまで書き上げたページをとりあえず破り、ふらつきながら台所へ移動する。

動物の声を聞く、つまり動物の鳴き声を人間の言葉に翻訳して、帽子を被る者の耳に届ける離れ業を、一回で成功させる自信は、健康だった時のカレンでも持てなかった。

動物の鳴き声辞典のようなものが存在していれば簡単なのだが、大体において物事はそう都合良く運ばない。

そのため今回は、一度の失敗やむなし、その後の修正ありきで作ることにしており、帽子も試作用も含めて2つ買ってあった。

修正方針を考えるのは横になりながらでもできる、とカレンはいつも通り鍋に液体を注ぎ、帽子を1つ沈めた。

火を着けると、強い温かさに心地良さを覚えたが、熱気の当たらない首筋から背中に嫌な冷気と汗があるのを否が応にも感じさせられた。

悪化の兆しだと困ると慌ててかきまぜ棒を手に取り、机に手をかけて立ち上がった。

呪文としている詩を詠み間違うのだけは、どんなに具合悪くても許されない、とカレンは頬を叩く。

集中力はあるような気がするが、ぼうっとして余所事を考えられないだけなのかもしれず、その辺の判断まで頭が回らないまま、ABCと始めていく。


"H had it,"

私も食べたいな、と思う。


"I inspected it,"

じっと見るってこんな感じだろうか。


"R ran for it,"

今は走れないよ、ふらふらだもの。


"S stole it,"

盗んでもどうせすぐ捕まる。


光る鍋から帽子をボウルへと取り出し、火を消したところでカレンはへたり込んだ。

辛うじて椅子の上に着地できたのは、床に座ったら立ち上がるのに骨が折れるだろうと思ったからだった。

健康な時でも、魔法の後はそれなりの疲労感があったことに、体調不良の今改めて思い至る。

気力と体力とがかなり削がれており、せっかく少しは良くなった具合が逆戻りしてしまったような心地に襲われて、カレンは冷めるまで休憩するつもりテーブルにうつ伏した。


少しの間のつもりだったが、休憩ではなく寝入ってしまったらしい。

敷いた腕が痺れて血が通わなくなる不快感で、カレンは目を覚ます。

上げようとした頭は重く、呼気は湿っていて喉が痛い。

今何時なのか知りたいが、時計は作業部屋で確かめようがなかった。

呻き声で勢いをつけて上体を起こし、ボウルの中身を触ってみると、粗熱が取れるどころか既に冷たくなっている。

判断力も低下しているカレンは、革製の帽子をなけなしの力で絞り、適当に引っ張って伸ばすと試しにと被ってみた。

動物の言葉を理解する魔法をかけたのだから、動物がいないと効果の検証はできないことが、風邪のせいなのか思考から抜けていたのだ。

また、絞っても当然濡れている革は、湿り気を容赦なくカレンの髪にも移す。

しかし、冷たいという内なる悲鳴は、粗く時折途切れる音で、耳に入って来た誰かの声に上書きされる。


"やればできるのに試しもしない

力はあるのに及び腰

いつもいつでも言い訳だらけ

魔法使いにならないの"


カレンは咄嗟に台所中を見渡したが、もちろん誰もいるはずがない。

ならば今の声は、帽子が翻訳した言葉を耳元で鳴らしたものだ。

そして、人間も動物も含めてこの場にいるのはカレン独りだった。


魔法が失敗したことに気づいたカレンは、いつもなら何が悪くて失敗したのかをすぐに考え始めるところだが、今日は具合が悪いせいで頭が働かず、一度帽子を脱いでから再び被った。


"試さないのは怖いから

保証がないって怖気づく

挑戦しなけりゃゼロのまま

魔法使いにならないの"


病んだ頭では、被った者が傷付くことを帽子が勝手に言語化する、あるいは被った者の潜在意識を翻訳して発する機能のどっちに転んでしまったのか、冷静な判断ができなかった、あるいはできないふりをすることが正当に許されていた。

すっかり髪と頭とを濡らしたカレンは、次第に熱が上がり痛んでくる頭に気づきながらも、剥き出しの心に対し自分がする揶揄の言葉を、いつまでもぼんやりと聞いていた。


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