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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(13)聞き耳頭巾③

しかしよく考えると、数少ない顔見知りには動物を飼っている人はおらず、近所で誰が小動物と暮らしているかももちろん知らなかった。

困ったカレンは、州都の月の市を頼ることにした。

定期的に行われている月の市は、農林水産物やその加工品、日用品、道具や工芸品などさまざまなものが売られていたがり、愛玩獣や家禽などの動物もその例に漏れなかった。

牛などの大型動物はさすがに来ていないが、販売区画には、犬猫から極彩色の鳥まで種々の生き物の匂いに満ち、鳴き声が人の話し声を凌駕して喧しかった。

まだ秋になったばかりだというのに、今日は随分と空気が冷たい。

空に太陽の姿は見えているが、その周辺には鱗のような雲がかかっていて近々雨でも降るのかといった様相で、陽光は削がれ、特に日陰に入ると上着が欲しくなる気温であった。

これは風邪を引きそうだ、とカレンはできるだけ日向を選んで歩いた。

とりあえず見つけたウサギの前に屈んでいると、店主が寄って来て、その種類は肉がたくさん取れる、それは肉が柔らかいなど説明を始めた。

ぎょっとして「食用なんですね」と言うと、店主はペットとしても飼えるよとにこやかに勧めてくる。

カレンは頷きながらも


「すみません、まだ下見なんです」


と慌ててその場を去る。

観察がしたいので留まりたかったが、長居すると売り込みが始まる。

ただの冷やかしなため、あしらうのにも後ろめたさがあって心が重い、と鳥籠が並ぶ露店の前で足を止めてみる。

小型から中型の鳥が賑やかで、カレンは店の最前に出ていた灰色の恐らくオウムに、芸もなく「こんにちは」と話しかけてみる。

オウムは返答なく首を傾げ、代わりに店主が「あら、鳥をお探し?」と奥から姿を現した。


「すみません、いろいろ見て回ってまして」


カレンは再び逃げるタイミングを図ろうとしたが、この店主は


「そうですかそうですか。家族になる子ですもの、慎重であるに越したことはないわ。じっくり見ていってください」


と無理に押さずに客に委ねるタイプのようだった。

カレンはオウムにもう一度、芸なく「こんにちは」と声をかける。

オウムは首を左右交互に傾げ続けているが、やはり返答はない。

言葉を覚えていないのかもしれないと思い至ったが、カレンは間が持てなくなった。

店主は距離を置いてカレンが鳥達を見やすいようにしてくれているが、こちらの動向をさりげなく窺っているようだった。

カレンはふと思い付いて、人好きのする面差しの店主へと向き直った。


「あの、私動物を飼ったことがなくて。動物と家族になるってどういう感じですか」


鳥を販売しているのだから、分かるのではないかと期待して尋ねたのだった。

店主はきょとんとし、そうですね、と少し考えてから口を開いた。


「人間の家族と変わりませんよ。ただ、人の言葉は喋れないけど、とにかく私達が守ってあげないといけない存在が増えるということかしら。

人間同士とは違って、動物が生きていくための全ての面倒を私達が見ることになる。私達がきちんと生活し収入を得ていないと、動物は食事もできなくなってしまうし。

親が子に対して持つのに似た責任を、人間も家族である動物に持つ、という感じでしょうか」

「なるほど」

「ああもちろん、言葉は分からなくとも気持ちは通じ合うことができるから、一方的ではないですよ。長く住んでいれば、今どうして鳴いてるのかだんだん分かって来ますし。

それにこの子達は代わりに癒しをくれます。仲良くもなれるし喧嘩もできる、愛情を注ぐとそれ以上に返してくれる。

まあ、ただそうですね、インコやオウムの場合は、賢い子だと人間の子供と同じくらいの知能があるから、ただの真似っ子じゃなくて言葉を喋ると言って良いような子もいますね」


例えばお客さんの目の前の子、と言われてカレンは面食らった。

こんにちは、は通じないのかと思っていると、店主が灰色のオウムに「アンドレ、おはよう」と話しかける。

するとオウムは頭を振りながら、


「ヒマワリノタネ、タベルゥ?」


と言葉を発したではないか。

初見の冷やかし客相手には喋らないのだろうかと軽くショックを受けたカレンは、「いつもはすごくお喋りなんだけど、今日は緊張しちゃったのかしら」とフォローをしてくれた店主に礼を言って、露店から離れた。


その後、店と次々に渡り歩いて動物の顔を覗き、飛び跳ねて撫でてもらおうと躍起になる子犬に怖気づいたり、顔を背け尻尾を檻に打ち付けて触るなと自己主張する猫の前を通り過ぎ、見学されていることにも気付いていない家鴨達の喧しさに、店主の説明が掻き消されて苦笑いして、カレンは冷えた身体を擦りながら市を後にした。


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