(13)聞き耳頭巾①
牛の言葉が分かる道具を何か作れないかという問い合わせが、職人組合からあった。
話を聞きに行くと、スタフィー州の役所からの相談案件で、乳牛の乳の出が良くない農家が相次いでいるが、食欲は落ちておらず、吸血虫でも夏場の暑さでもなさそうということで原因が分からず困っているという。
農家の集会で問題を話し合った時、議論が閊えて進まなくなったところで、牛が何を言っているか分かればいいのになあ、と冗談で誰かが言った。
本当にそうだそうだと場が和んだ中から、東の国にそういうのがあるってどっかで聞いたな、と言った者がいた。
そういうのって何だ。
何だったか、被ると動物の声が聞こえる帽子だったっけな。
へええ、妙な帽子があるもんだな。
何でも、子狐を助けてやったら、その親から貰ったとか。
狐が礼なんかするもんかね、それとも東の狐は性質が違うのか。
ここじゃ鳥という鳥を狙って来る性悪狐しか住んでねえよ。
そして、農具ではない道具には詳しくない彼らは、そういう道具が本当にあるかどうか、あるのならどうすれば入手できるかを、一旦役所に相談することで一致した。
当然、役所も道具には詳しくない。
加えてこの国のものでなく、存在も定かではないとなると調べようもない。
困った役所が、道具は道具屋だと職人組合に助けを求め、組合が作れそうな気がするという理由でカレンに話を寄越したのだった。
「あの、作れそうな気がするっていうのは、ちょっと乱暴では」
最大限の戸惑いを示すカレンに、組合の職員は自慢げに下調べの結果を提示してみせた。
それは、民間伝承の研究の一部抜粋であって、該当部分に下線が引いてある。
『……一方、動物が助けられた恩を返す動物報恩譚は、主に東方諸国の民話に見られるところである。
報恩の方法は実にさまざまであり、見返りとして、人間の姿に変化して奉仕あるいは助力を行うもの、超常的な道具を授けるものなどが存在している。
前者は……、後者は、老翁が子狐に木の実を取ってやったところ、母狐から動植物の言葉を理解できる頭巾(柔らかい、布製のつばなし帽子)を与えられるというものである。
老翁は、その頭巾により、鳥達の囀りの中に領主の娘が病みついている原因を聞き取り、領主にその旨を伝えた。領主がすぐに原因の除去を行うと娘はたちどころに快復し、老翁は多額の報奨を受けることとなったとされている。……』
該当する本が図書館に所蔵されていることは確認済み、司書に申し出ればすぐ借り出せるはずだ。
イメージ作りの土台は整えたので、後はよろしくご検討を、そんなしたり顔を職員の表情に見い出し、カレンは「やれるだけは、やってみますが」と引き攣りながら答えるしかなかった。
組合経由の依頼であっても、難しければ当然断って構わないのだが、職人達は何となく心理的圧迫から、組合の依頼はどんなに多忙でも一旦は引き受けるのが通例になっていた。
他人との擦れ合いを苦手とするカレンはなおさら断れない。
当面の引受先が決まり、るんるんと音を立てそうな上機嫌の職員を目で追いながら、カレンはいつも通り諸々を諦めた。




