表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/94

(12)金の卵を産む雌鶏③

イーデンは、満を持して聴講者を見渡したが、金の卵と発言した時こそざわついたものの今は反応がいまいちで、まさかフラミンゴのことを知らない、または赤くなる仕組みを知らないのかイーデンは密かに驚愕した。

実際はそうではないのだが、イーデンは勘違いしたまま、今更説明するのは気まずいので省略し、


「あー、まあそういうことで、それで、肝心の魔法のかけ方なのですけれども、かけ方の種類は既に学習済みだと思うので、一応私の方法もご紹介しておきます」


と大判の紙を取り出した。

紙には基本となる円と直線だけがごく簡単に記された、初歩の魔法陣が書かれている。


「私の魔法はご覧のとおり魔法陣方式でかけるものです。

中央に魔法を付与したいものを置くと、魔法がかかるという基本的なやり方であります。

もっとも、今日のこれは実際使っているものではありません、一応職業上の秘密なもので見せられないのでね。

これにちょっとした言葉、餌の色素をこれから体内で生成される卵の殻に集中させるような言葉を、書き加えて使います。

黄色い色素を持つ餌を中央に盛って、ちょっとした呪文、私は最近は『成功しろ』と呼びかけます」


生徒が何人か含み笑いをした。

イーデンは紙で視界を遮っていて気づかない。


「ただ、どう書けば成功するかというのは、ご存知のとおり、もう自分で試行錯誤するしかないわけであります。

私も何百回と失敗して、今ようやく殻がだんだん黄色っぽくなって来たかな、というところですね。

どのくらい色を移したいかで、書き込むべき言葉だったり文字の大きさだったりが違って来るのではないかと見ていますので、もう少し黄色に近づいたら、今度はもう少し暗さを入れたりしようと計画しています。

問題は光沢ですね、光沢がある餌というものは存在していないので、どうやって輝きを出すかというのが最大の課題になると思っております」


少なくとも生徒の何割かはがっかりしたようだった。

豆と言い卵といい、作ろうとしているものは魅力的なのに、魔法のかけ方を含めて作業が非常に地味であった。

およそ仕事というものは、ほとんどが地味な作業の積み重ねでできているものであって、興業ではあるまいし、ぱっと目を引く行為を要求する方が間違いだが、学校を出ない若い間は、とかく色眼鏡による想像が優勢になりがちだった。

魔法使いでさえ、杖を扱い魔法をかける見た目こそ華やかだが、その地位に至るまでの血の滲むような努力と、地位を維持するための研鑽は見落とされている。

腑に落ちない生徒は、豆の時と同様に、


「金の殻の卵って食べられるんですよね、安全なんですか」

「割ったら中も金色になってるんですか」

「いつ完成する予定ですか」

「完成したらどこかで買えるようになりますか、やっぱり首都ですか」


と卵自体で攻め始め、イーデンが爆発する前に、慌てた教師がようやく「魔法の授業なんだから魔法に関係した質問のみ!」と遮った。

遅い、とイーデンは憤ったが、初撃に失敗した生徒達は、許可を受けた魔法の部分で質問を繰り出そうと企み手を挙げる。

なおかつ、イーデンの説明が舌足らずだったせいもあって、真面目に聴いていた生徒も意思疎通なく質問を求めて、援護する形になる。


「どうして魔法陣にしたのですか。他の方法は試さなかったんですか」」

「もちろん試しましたよ。皆さんと同じように、まあまだそこまで学んでいないかもしれませんが、魔法陣と、魔法をかける道具の作成と、対象に触る方法と。そして適性があったのが魔法陣だったということに尽きます。まあ、でも皆大体魔法陣か道具になりますね」

「その呪文って何でそれにしようと思ったんですか」

「呪文自体には効果がないというのは習いました?何でも良いわけですよ、唱えるのは。私は失敗を重ねたくないので『成功しろ』と言い始めたら、成功率が上がったのでそれにしているだけです。時々違うことも言います、『さっさと成功しろ』とか」

「今日ここでかけて見せてはもらえないんですか」

「餌の色素を殻に定着させる魔法ですよ、かけても餌自体の見た目は全く変わりません、金色になったりしません。他の講師が魔法をかける時に見せてもらってください」

「魔法をかける時、鍋でぐるぐる掻き混ぜたりはしないんですか」

「鍋?何ですかその前世紀的なかけ方は。今時そんな人いませんよ、学校でそういうかけ方を習ったんですか」

「魔法使いになりたいとは思わなかったんですか」

「……今日は職人の仕事と魔法のかけ方がテーマだと聞いていましたが?」


とうとうイーデンが教師陣をも睨み始めたところで、魔法に関する質問を捻り出せない生徒が、教師の指示を破り第二撃を浴びせた。


「金の卵って、後から色を着けるのではダメなんですか、イースターみたいに」


ところで、聴講していた生徒の中に、商人街で金物を取り扱う店の娘がいた。

入り混じる怒号と私語とで収拾が付かなくなった教室の中で、「あの人さあ、もう二度と来ないよねうちの学校に」と話しかけて来た友人に相槌を打ちながら、彼女は、父の顧客に、魔法をかけるのに鍋を使う人がいたような気がするが、記憶違いだっただろうかと首を傾げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ