(12)金の卵を産む雌鶏②
イーデンが、本来の専門分野である品種改良の歴史や、植物と動物における考え方の違いなどをくどくどと述べていると、途中で生徒の1人から手が挙がった。
「そこの君。何でしょう、どうぞ」
観賞用の改良は動物だけだと間違えてしまったがその指摘か、とイーデンが歯噛みしながら指名すると、短髪の男子生徒は起立して
「さっきの豆なんですけど、莢はどのくらいの大きさになるんですか」
という質問をした。
「豆?ああさっきの?豆の収穫目的で育成するわけじゃないので、その点は何も改良していないから莢の大きさはまちまちですね。でも最大で3メートルくらいにはなるんじゃないでしょうか」
「そうすると、そこから取った豆を植えるとまた豆の木が生えるんですか」
「学術的に考えれば生えると思いますけど、そこまでは試していません。初代だけ巨大化すれば良いという依頼だったので、その時は」
イーデンが無造作に答えると、別な赤髪の生徒が挙手しながら立ち上がった。
「その豆ってどこで売ってますか」
「分かりません。販売目的だったかどうか私は聞いていないので」
他の生徒も代わる代わる質問を投げかける。
「巨大な豆の木ってどこかで見られますか。首都とか行けばいいんですかね」
「それも分かりません。私は改良を依頼されただけなので」
「でもでかくなるのは確かめたんですよね。それってどこに植えたんですか」
「依頼人の研究所の敷地内ですね。場所は教えられませんが、当時の蔓は残っていません。豆は一年草なので1年で枯れます。もう10年以上前の話なので」
「10年も経ってるのに誰もそんなに大きな豆を見たことないのって変。何でそんな大きい豆を作ったんですか」
「何故作りたいかという点は聞いていません。豆の話はこれくらいで」
不満そうにざわつく生徒達を眺めながら、これだから素人は、とイーデンは心の中で毒づく。
改良過程ではなく豆の現在を知りたがるなど、人の話を聞いていたのかと憤慨しながら、準備していた話題に移る。
先週は、ここまで辿り着けずに終了を余儀なくされたところであり、そういう意味でも不満が溜まっていたところだった。
「今ちょうど金の卵を産む鶏の研究をしていますので、それを例に私の魔法の関係で説明します。
とはいえ世界には既に白や茶色だけでなく、薄緑の卵なんかも存在していますが、卵の色は基本的に鶏の種類で決まるため、改良するのは鶏の方なわけであります。
基本は交配で改良していきますが、茶色と薄緑の卵を産む鶏を掛けあわせても、都合よく中間色の卵が産まれたりはしません。
絵の具の場合は、金色自体は複数の色を混ぜてやっとできる色のようですので、緑やらオレンジやらと比べると難易度が高いらしいですが、卵の場合は、既存の色以外を産ませようとするならば皆同じ難易度と言ってもいいでしょう。
例えばピンクのような奇抜な色であれば困難を極めるでしょうが、金色は茶色と同系統なので実はそれほど時間はかからないのではないかと私個人は推測しているところであります。
その方法と言いますのが、餌に工夫を加える方法であります。
餌は卵の色に関係ないという研究結果が出ているところでありますが、私の場合はそれを破って、赤い餌を食べると羽根が赤くなるというフラミンゴという鳥のことを皆さんご存知と思いますが、その色素を卵の殻に集中させようという試みです。
同じ理論を使うなら、白い卵の鶏からスタートさせるべきところなのですが、発色させるべき色の数が倍に増えてしまうので、今回の依頼では薄茶色の卵の鶏を使っています。
一旦、金色の卵を産む鶏を作れたら、今度はその鶏同士を交配し、餌に依存せず金色の卵を産む種を作るというのが次の段階ではありますが、これはまだまだ先の課題と考えております。
まあ、直接金色の卵の種が作れればそれに越したことはないので、突然変異の出現も狙っているところです。
とにかく、今私は従来の研究結果とは全く異なる方法で目的達成することを目指しており、もしこれが成功すれば学術上も新発見ということになります」




