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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(11)独りで鳴り出すハープ⑨

ハリエットは、そこで固い顔をしているカレンに気が付いて、「ごめんなさい。貴方に文句を言ったのではないんです。家族の汚点をお見せしてしまって恥ずかしいわ」と眉を下げた。

やり込められるばかりだったハロルドがチャンス到来と言わんばかりに反撃をする。


「そうだよ失礼だ、ミス・アスターはわざわざスタフィー州から来てくださったのに。"お父さんの曲"の曲名を特定できないかって」

「ハープをこしらえるために?」

「そうだよ。魔法のハープを作るのに必要だから。さっき書斎の楽譜も見てもらったんだ」


カレンは慌てて、まだできるとは決まったわけではない、と言おうとしたが、訝し気なハリエットが「曲名?"お父さんの曲"ってそういう意味じゃないと思うけれど」と不満を零したことで機を逃した。

ハロルドも初耳だったようで、「ええ、じゃあ何だって言うんだ」と戸惑いを隠さず尋ねる。

ハリエットは2人に見つめられながら、動じた様子もなく答えた。


「お父さんの曲を聴きたいというのは、父の演奏を聴きたいという意味でしょうよ。特定の曲というわけではなく。

父は作曲はしませんでしたし、生前特定の曲を常に弾いていたということもなかったし」

「でも、母にだけよく聴かせていた曲があるんじゃないか」

「あるかしらそんなの。そんな曲があったら私達が聴いているもの、同じ屋根の下に住んでいるのよ。まあ、思い出の曲はあるかもしれないけれど」


カレンは頭が痛くなって来た。

作れるかどうかを探るつもりだったのが、そもそも依頼を出すところで兄妹間で揉めており、何を作るべきかに関わる"お父さんの曲"の解釈がここに来てずれる。

候補の曲をリストにしてイメージに注ぎ込むのが困難であるのは、曲数と所要時間の問題だが、もしハリエットが言う通り、夫が演奏するハープの音色を聴きたいという意味ならば、それは人の心の中にある音楽の再現になる。

そしてカレンは、その演奏を聴いたことがなく、ホプキンズ一家は演奏がどんなものだったのかをカレンに伝える方法を持たない。

つまり、カレンは『概念の型』を作れないということになる。

はるばるロダキーノまで来たが、これはもう断っても職人の職務放棄にはならないはず、カレンをしてそこまで思わせるほど、状況としては今までで一番混沌としていた。

それにもかかわらず、兄妹の結論としては、最終的に続行が選ばれたようだった。


「でも、こうやってわざわざロダキーノまでおいでくださったんだから、やるだけやってみてもらおうよ」

「そうねえ、もうお願いしてしまいましたし……」


どうしてあんなに、しかもカレンの耳に入る状態で言い争っていたのに、続行という選択をするのか。

カレンは戸惑いながらも、さすがにここは一言言わなければと、


「あの、今のお話を聞いた限り、できるかどうか分からなくなりました」


と2人に伝えた。

カレンは検討の打ち切りも辞さないつもりだったが、兄妹は理解を示す頷きを返しながら、「とりあえず試していただいて」「昼食近くなったら母を起こしますので、その時にお会いになれると思います」と曲解をしたままで、カレンの勇気ある抵抗は奏功せずに終わった。

嘘でしょう、とカレンは口の中で呟いた。


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