(11)独りで鳴り出すハープ⑤
カレンが、ロダキーノで長距離馬車を降りると、中年も後半に差し掛かったを見える、眼鏡の男性から声をかけられた。
「失礼ですが、ミス・アスターですか」
停車場で待つと返信に書いてあり、男性の迎え人は彼しかいなかったため、容易に特定ができた。
カレンが、「このたびはお忙しいところ申し訳ありません」と頭を下げると、依頼人ハロルド・ホプキンズは、
「こちらこそ遠路はるばるすみません。遠かったでしょう、どのくらいかかるのでしたっけ」
とカレンの荷物を持ってくれた。
バーミアからエルデラ州ロダキーノへは、直通の長距離馬車は通っていないため、一旦スタフィーの州都まで出て、そこからエルデラの州都を経由してロダキーノに着くというルートとなる。
バーミアからスタフィーの州都へは1時間で行けるが、州都間の移動は早朝発で深夜着となるため、丸1日かかる。
カレンは昨日エルデラに着いて、長距離移動者用の簡易ホテルに宿泊し、朝の近距離馬車でロダキーノに到着したのだった。
こういう移動をしたのは初めてで、エルデラ州に足を踏み入れるのも初めてだったカレンにとっては、非常に疲れまた砂埃まみれにはなったが、バーミアにはほとんど見られない果樹、まだ実が付いておらず何の木かは分からなかったが、街道沿いに伸びる果樹畑を珍しく、目の保養として眺めていた。
「1日と数時間、というところでしょうか。ホプキンズさんの丸2日よりは近いでしょうか」
「ああ、ビゼーリからの距離感をご存知で」
「最初のお手紙に書いてありました」
「書きましたかね。ああ、書いたかもしれないな。記憶力がすばらしいですね、ミス・アスター。やはりお若い方の記憶力には敵いません」
若い、と言われてたじろいだカレンは、「いえあの」と言葉を濁す。
「ホプキンズさんは昨日来られたのですか」
「ええ、今日到着だとずっと後の時間帯になってしまいますので。実家にも所用がありましたので、いろいろと済ませられて捗りました」
とハロルドは停車場周辺で待機していた、唯一の絨毯に近寄っていった。
ハロルドが呼んでおいたのだろうか、とカレンが後ろを着いていくと、彼は「絨毯は初めてですか。いや職人さんだから初めてということはないでしょうな」と声をかけた。
「はい、乗ったことはあります。州都で数回」
「なら大丈夫ですね、初乗りの時は結構おっかなびっくりですから。ミス・アスターはやはり空飛ぶ絨毯を手掛けたことなんかはあるんですか」
「実はないんです。私は機能的にオーダーメイドなものを作る職人なので、数が作れないから注文が来なくて」
「ああ、量産型ですからね、絨毯は。ああでも、魔法の道具を量産型というのも不正確か」
乗布経験はあるとはいえ、前回は3年前とか5年前とかそういう域であるため、カレンは内心緊張しながら絨毯に乗り込む。
久しぶりの布の感触は心許なく、進むにつれて沈んでいったらと心配になって落ち着かない乗り心地だった。
ホプキンズ宅に到着するまで、もし私に注文が入ったら固さをもっと増強する、と気を逸らしながら身体に変に力を入れたまま座っていた。




