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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(11)独りで鳴り出すハープ④

何となくそれらしい箇所に差し掛かって来た、とカレンは続けて読んでいく。


『父の曲と言っても、父は作曲をしたことがないのは確かで、どの曲を指しているのか何度尋ねても、お父さんの曲としか返答がなく、皆手を焼いている。

母は父より5歳年下であるが老いが急激に進んでおり、あんなに可愛がっていた孫達も心に留まらなくなってしまったようだ。

かつての同僚や父の生徒に、心当たりの曲を尋ね回り、オルゴールを鳴らしてみる、姪がピアノで弾く、時には父の生徒に頼んでハープで奏でてもらうなどいろいろと試したのだが、これじゃない、と子供のように頭を振って、母の反応は全く芳しくない。

完全に活力をなくし、このままでは母が悲しみに浸ったまま余生を過ごすことになりかねない。


ついては、母のために独りでに曲を奏でるハープを作ってもらえないだろうか。

奏でる曲は、母の心の中で流れている曲を汲み取り、その曲を鳴らす形にして欲しい。

大きさはごく小型で構わない、むしろ腕で包めるくらいの大きさが希望である。

母はハープを演奏できないため、音はハープでも、楽器としての演奏はできなくても構わない。


無理をお願いしているのは承知の上だが、ビゼーリの職人には悉く断られてしまった。

断られる途上で、貴方ならできるのではないかと何人かから聞いたのでこうして依頼をさせていただくところである。

もう貴方しか頼れる先がない、人助けだと思ってどうか』



「……いやいやいやいや」


カレンはそこまで来て、抗議の声を上げざるを得なかった。

他の職人が断るのは当たり前だ、依頼を受けて製作するタイプのものづくりは、どういうものを作るかが明確であることが必須だ。

ハープの小型版なのはいい、曲が勝手に鳴るというのも恐らく何とかなるだろう。

しかし所有者さえ曲名を知らず、ただ胸の中に流れている曲を当てて奏でろというのは、ただのクイズだ。

曲名が分かるのなら、それこそオルゴールの櫛歯の役割をハープの弦が務める仕様にして、曲のイメージと駆け合わせればいい。

しかし曲名不詳となれば、この世に存在するハープ曲を全て、『概念の型』に織り込まなければならない。

もちろんイメージが基礎になるのだから、カレン自身がそれらを全て聴く必要があり、この段階で既に製作は困難を極める。

そしてもし仮に、カレンが死ぬ気で努力して全曲のイメージを積み上げられて、何とかハープを製作できたとしても、その中から特定の曲を奏でさせたいならば、所有者の具体的な指示がどうしても必要になる。

せめて、メロディの一部だけ歌うくらいはしてもらわないと、道具は動作しようがないし、所有者が奏でて欲しいと思っている曲を当てるような魔法を、カレンはかけられる気がしない。

そもそも、ハープ奏者の思い出だからと言って、ハープの曲であるとは限らないのも、依頼の難易度を跳ね上げている。

これでは職人にことごとく断られるのも当然だった。


カレンは、呻きながら腕組みをした。

明らかに無理だと思われる案件は、オリバーの段階で振り分けが入り、カレンには届かない。

しかし彼はこの案件を、そのままカレンに流して来た。

便箋にもカードにも、この依頼についてのコメントは添えられておらず、少なくとも彼はカレンに対応できる可能性があると考えたということになるが、当の本人としては、そう考えた根拠をぜひとも教えてもらいたい。

もしかして、プレースマットのプレゼントは応援だったのかと勘ぐりながら、カレンは悩む。

第一印象としては、この仕事はカレンの手に余る。

所有者の心を読み取り、ハープが蓄えている曲のリストと突き合わせて、適合した曲を奏でるという枠組みは、今までのイメージ作りでは太刀打ちできない。

しかし、だからできないという結論を掴みかけた手を、カレンは引っ込めた。

随分と早々に諦めるじゃないかという声が、頭の中で意地悪く響く。


さっきのマットも、魔法使いも、挑戦もしないで諦めてばかり。

しかもこれは依頼の話だ、依頼人が、製作を望んでいる他者が存在している。

それなのに、やったことがないという理由だけで、試しもせずに断るとは、仕事を随分軽く扱っているのではないか。

思いばかりが溢れて肝心の部分が全く乏しい依頼文は、詳細を確認する必要があるのに、手を尽くさずに決断するのか。

布魔法を諦めるまでの、粘りと悪足掻きはどこで落として来たのか。


もちろん別な人格が住んでいるのではない、カレンという1人の人間が、無理だと思う対岸で、諦めるなと発破をかけているだけだ。

それに、名うての仲介人であるあのオリバーが、門前払いをせずにカレンに依頼を流して寄越した。

オリバーの顔色を窺うような決め方は間違っているが、彼がカレンの実力をそのように踏んでいるのなら、やるだけやってみる、それしか道はないのでは、とすぐに出戻って来そうな臆病風をカレンは払い捨てた。

どの道、もう少し話を聞き状況を把握する必要がある。

ハープは、依頼主からその母親への贈り物にされる、それならば贈られる側がどんな意匠を好むのかなどを知らないと、イメージは作れない。

いつもなら手紙の遣り取りで対応するところを、今回の依頼人は手紙では埒が明かない予感しかしなかった。

カレンは一晩悩みに悩んだ末に、彼女にしては非常に思い切って返事をこう書いた。


『製作は非常に困難だが、実現の道を探るため、依頼人の母親という方に会わせてもらうことは可能か。

もちろんロダキーノの実家において。』


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