(11)独りで鳴り出すハープ②
黒い飲み物で食事を終え、カードには魔法終了の文句については特に記載がなかったが、「おいしかったです、ごちそうさまでした」と宣言してみると、プレースマットを残して食器類が全て掻き消えた。
期待を込めてマットを持ち上げてみたが、チューリップの時とは違って、魔法の気配は一筋も感じられず、ただの布に戻ってしまっていた。
糸の段階でどういう魔法を施せばこうなるのか、カレンはしばし考え込んだ。
製作者の魔法のかけ方はもちろん知る由はないが、もしかして布に魔法を付与できるようになったのではないか、だとしたら大発見なのだが、そんな話は誰からも、新聞でも他の職人からも聞いたことがない。
ぜひ詳細を知りたく、オリバーへの礼状かたがた、このプレースマットはどういうものなのか聞いてみようと心に決めたところで、カレンははたと我に返った。
食欲は満たされたのだから、そろそろ仕事に戻らなければならない。
優雅に分析をしたりくよくよしたりしている場合ではないのだ、とカレンは作業部屋に戻って、依頼文を読んでみることにした。
依頼文は、他のものと同様、首都ビゼーリに在住している男性だという自己紹介から始まっていた。
以下は要約である。
『国の機関で街道の設計・整備を行う仕事をしている。
出身はエルデラ州ロダキーノで、魔法はあまり特性が認められなかったため、魔法以外で専門の道へ行こうと勉学に励んだ。
努力が実って、国で働けることが決まった時は、一族の誇り、町の名誉、皆の模範となる人物だと称えられ、故郷を離れる時には町中の人達が万歳三唱で見送ってくれた。
勇んで首都に出て来、期待に応え、故郷に名が届くような大活躍をしたいと仕事に懸命に取り組んだが、なかなか人生そううまくは行くようにはできていない。
胃の中の蛙とはよく言ったもの、国には自分よりも秀でた者など履いて捨てるほど在籍しており、自分は見事その中に埋もれてしまった。
出世するのは、能力があり、かつ世渡りがうまい者、追従が脊髄反射でできないと肩を並べることなどできない。
社会に出て強いのはそういう力だ、そう割り切って、良い成果を上げようと努力するも、出世には興味は持たず爪を隠している、抜群の才能を有する者に敗北感を覚える。
そういう者は努力して当たり前、それが最低限であり、皆、蓄えた膨大な知識や技術を適時に引き出して立ち回ることができた。
それに引き換え自分は何だ、どちらも中途半端なまま鼻だけは高々として、誰にも勝ることができない。
鬱屈しながら、割り当てられた仕事をこなしていくこと数十年、そんな自分も、地道に職務をこなすと目をかけてもらい、他に勝らずとも劣ることはない身分で、それなりに職務を全うしているところである。
家庭の方は、幸いにも若いうちに結婚をすることができた。
子宝にも恵まれ、妻と3人の子とを養う一家の長として、首都の人間となって35年を経過した。』
自叙伝の一部かな、という感想を抱きながらカレンは首を傾けていった。
カレンなりの要約を加えたのが上記の内容で、実際は何枚消費するのだという便箋の使い方だった。
これまでのところ、依頼らしい内容は全く出て来ない、いや出て来ていないはずだ。
オリバーの目を通ってからこの手紙は送られてきているので、何の製作依頼なのかは必ずどこかに書いてあるはずだが、今のところ要領を得ないこの手紙を、さぞ困惑しながら読んだのだろうと、内心穏やかではない時のあの怖い笑みを思い浮かべながら苦笑いした。
気を取り直して読み続けていく。




