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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(11)独りで鳴り出すハープ①

オリバーから届いた依頼文に添えられていた小さな包みを解くと、中から綺麗に折り畳まれた藍色の布が現れた。

雪の結晶をモチーフにした模様が等間隔に白く刺繍され、次の列とは位置が互い違いになっている。

同梱の説明用カードにはミニテーブルかけと記されていたが、広げてみると、どちらかというと大きめのプレースマットというサイズで、カレンの台所テーブルは覆いきれないかと思われるところだった。

カードによると、これは広げると1人分の正餐せいさんが現れる魔法を施してあるため、食事する準備をしてから使用すること、食事が現れるのは1回のみであり、食事が終了すれば食器ごと消えるため片づけの必要がないこと、使用後は通常のプレースマットとして活用できるとのことだった。

オリバーからの手紙も封入されており、そこにはこう書いてあった:


『きちんと食事をしていますか。

ささやかなではありますが、首都で話題になっているプレースマットを贈ります。

正餐とは大袈裟でカジュアルディナーくらいなので、気楽に。

道具は使うもの。いつまでも使用せずに研究に勤しむのはダメですよ』


先読みされた、とカレンはたじろいだ。

カードを目にした時点で、ビゼーリではこんな魔法が行われているのかと感激し、どういう仕組みなのかぜひ調べたいと思ったのが、オリバーにはお見通しだったようだ。

今日は昼を抜かしていたため、料理が出て来ると知って急激に空腹感に襲われる。

何となくふらついているのは食べていないせいだったのか、とカレンはそこで初めて思い至った。

身体はともかく、頭に栄養が回っていないのは良くない。

しかも、滅多にないことだが、依頼状が束になるほどに非常に分厚い。

依頼品の資料でも入っているのかと一瞥してみたが、10枚以上に渡る全てが便箋で、かつ依頼人の字で埋め尽くされていた。

カレンの今の状態だと、この大作を読んでも内容が頭に入って来ないだろう。

夕食時にはまだ大分早かったが、ここで適当にパンを齧っても回復はできないだろうと考えたカレンは、とりあえずオリバーからのプレゼントを早速、ありがたく使わせてもらうことにした。

使い終わっても魔法の気配だけ残っててくれないかなあ、と未練を抱えながら、台所に移動し、テーブルにプレースマットを敷けるスペースを作った。

カードによると、準備ができたらマットに向かってその旨を唱える、とあり、唱えるべき文句が記してあった。

この文句は、マットに魔法の発動を指示するためのものなのかと、アイディアを新鮮に思いながらカレンは咳払いする。

いつも魔法をかける時には何ともないのに、こうやって居住まいを正し、改まって発声するのが、誰も聞いていないにもかかわらず何となく恥ずかしい。

しばらくの間葛藤していたのだが、そのうちにも空腹は容赦なく進み彼女自身を責め立てるため、ええいもうどうにでもなれ、とカレンは声色作って言った。


「プレースマットよ、おいしい食事を出しておくれ」


するとどうだろう、良い匂いの空気が吹き上がったかと思うと、プレースマットの上いっぱいに、揃いの白磁の食器に乗った洒落た料理が姿を現した。


トマトと桃の冷製スープ

サーモンとホタテの蒸し焼き

レモンドレッシングで食べる季節野菜のサラダ

鹿肉のロースト木苺と赤ワインソース

ヒラメの蒸し煮バターソース仕立て

自家製塩キャラメルアイスクリームと黒スグリシャーベット

コーヒー

バスケット山盛りのパン


温かいものは温かく、冷たいものはしっかり冷やされていて、金色のカトラリーとナプキンも添えてある。

カレンはすっかり嬉しくなって1つずつ口に運んでいったが、どれも手が込んでいて非常に美味だった。

デザートとコーヒーが一気に出て来てしまうのはご愛敬なのかと思っていたが、氷菓は最後までほとんど溶けることなく、コーヒーも熱いままだった。

あまりにおいしいのと空腹なのとで、味わわずにもりもりと食べてしまい、バスケットも空にして、コーヒーに至ってやっと我に返った。


どうすればこんな気の利いたことを思い付けるんだろう、とカレンのせっかく高揚した気持ちは羨ましさに切り替わっていった。

カレンは、客の注文に応じて製作するタイプの職人であり、何を作るかという一からアイディアを絞り出すことは求められていない。

しかし、カレンはとにかく企画力がなく、例えば作る側から商品を出していくという業態に変える、と仮定した場合、職人の看板を下ろさなければならないほどには、ゼロからのスタートを苦手としていた。

既にあるものを膨らませるのはできても、存在していないものを膨らませることはできない。

都会の機微に触れて、いろいろな人や物と巡り合ってニーズをうまく拾えば、素敵な思い付きが湧いて来るようになれるのだろうか。

それを、今更無理だ、とカレンは結論付けてしまった。

積み上げて来た信頼をリセットし、社交性ある性格へと生まれ変わり、生活環境を新たにして自分を鍛え直す。

成長したいという志を持っていても、そこまで大胆な行動にはもう移れない、とカレンは溜め息でコーヒーの湯気を揺らした。

中堅に至る前だったら、もっと若かったら何とかなったかもしれないのに、と一応悪足掻きのような考えを持ち出してみるが、若くても行動しなかったという冷たい確信が、カレンの戯言に終止符を打った。


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