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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(10)ゴマが開ける扉②

数日後、依頼内容のイメージ補強のために図書館の助けが必要となったため、カレンは件の本も読んでみることにした。

司書に教えてもらった棚を覗き、薄めの本を抜き取る。

このページ数なら貸し出しを受けなくとも、館内で読み終わりそうだ。

子供用の教科書に載るくらいだからこんなものか、と閲覧机に移動してさっそく開く。


『開けゴマ』は、聞いた通り、盗賊が財宝を蓄えている洞窟の、開錠呪文として使われていた。

唱えると、岩が割れ中の鉄扉が開くという仕掛けになっていて、閉じたい場合は『閉じよゴマ』を使う。

誰が唱えても開錠ができ、物理的な鍵をなくす恐れはない代わりにセキュリティは低い。

物語の中でも、盗み聞きした主人公とその兄に使われ、財宝を持ち出された。

欲深い兄の方が言葉を誤り、出られなくなって盗賊に殺されてしまうという気の毒な箇所を過ぎ、十数ページ読み進めたところに、明らかに見覚えのある器具が挿絵として紙上に現れた。

財宝を持ち出した主人公に復習するため、油売りに身をやつし客として盗賊は主人公宅を訪れる。

そのもてなしの最中、灯火用の油を借りようと外に出た召使の手の中に描かれていたのは、忘れもしない、小さい如雨露のような、蓋のあるソースポットのような"本物のランプ"だった。

あのランプと、このゴマの話は、同じ国の出身であるらしかった。


(こんなところに出て来るなんて)


古い友人に思いがけないところで会った気になり、面映ゆいが豊かな気持ちになりながら、カレンは解説まで読み進めた。

ささやかな解説には、この話が千の物語が束ねられたうちの1話であること、それから物語の背景が書かれていた。

扉を開閉するのに何故胡麻なのかについては諸説あるらしいが、舞台となった国の重要な作物であること、莢が弾ける様子を開扉に見立てたこと、胡麻という言葉そのものに神秘的な意味があること、などが候補として並べられていた。

神秘的意味で選ばれるのが、呪文としてはふさわしいなと思いながら本を戻す。

魔法をかけるのに大事なのは言葉であり、言葉自体に神秘の力があればより成功率が上がるだろう。

もし、ランプの依頼の時にこの本を知っていたら、もっと出来の良いものが作れていたかもしれないな、とカレンは無駄な反省をしながら、元々借りるべきだった本を借りて図書館を後にした。



カレンが素材屋に立ち寄るところで、通りすがりの子供達が、ドアを開けるのに合わせて「開けゴマ!」と笑い声とともに声を揃えた。

驚き慌てて店内に入ると、店主が「うるせえなガキ共は」と苦笑いで出迎えてくれた。


「流行ってますね」

「一回火が点くと芸がなく一辺倒ってのがね。うちのガキも、ドアというドアに言ってますよ」

「ああ、思い浮かぶなあ」

「どうせ一過性でしょうけどね。まあ教科書に載ってるから、来年は下の学年の子が言い始めるんでしょうが」


言葉の流行は、男子から始まり学年全体に波及してしばらく続くが、誰かが飽きたと言い始めるや否や潮が引くように誰も口にしなくなる。

カレンが同じ年頃だった時も、確かそうだったと懐かしんでいると、硫黄と水銀の注文書を作りながら、店主がそういえばと尋ねた。


「アスターさん。思ったんですが、この『開けゴマ』って商売にならんもんですかね」

「商売、ですか?」

「ええ。家に洞窟がある奴なんてまあいませんが、要するに天然のでかい金庫だったってオチだったそうじゃないですか。この辺の連中が店に持ってるくらいの大きさのやつが、『開けゴマ』とか何とか言って開け閉めできたら便利じゃねえかなって」


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