表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/94

(10)ゴマが開ける扉①

ミルクとパンは配達してもらっているが、当たり前だがその他の食料は自力で調達しなければならない。

作業部屋に籠っているだけで空腹になってくるし、食べないわけには行かないが、億劫なので買い出しには出かけるのは週に2度にしている。

本当に立て込んでいる時はその2度さえも手間に感じるが、そうするとミルクとパンだけで生きることになる。

怠惰の代償を何度か払って懲りてから、カレンは"2度ルール"を守るようにしていた。


出かけない日に見る風景は、空とポスト周りだけであるため、外に出ると、思いがけずに季節が進んでいることもしばしばあった。

葉の色が変わっていたり、収穫祭の飾り付けが始まっていたりするのを見かけて、そういえば空気の質も変わり、だんだん乾いて来たと気が付く。

季節だけではない、店の看板が変わっている、空き家になっているなど、よく知っている町並みも不変ではないと驚かされたりする。

よく見知っているつもりだったのに、取り壊された跡を見ても、ここにどんな建物があったのかどうにも思い出せない。

お前は日頃何を見ていたのかと、誰からともなく咎められている心持ちに陥る。


それにしても、まだ昼前だというのに町中に子供の姿がやたらと多い。

大声を上げながら駆けていく小集団と何度も擦れ違い、今日は午前授業なのだろうかと予想を立ててみる。


「開けムギ!」

「ちっげえよゴマだよ」

「ムギってハリーが最初に言ったんだよー、勝手に使ったらダメなんだよー」

「開けゴマ!ガラガラ、ドーン」

「うわっゴーレムがあらわれた!」

「ゴーレムじゃねえよ、キンギンザイホウだよ」


元気だなあと聞くともなく耳に入って来る声の中に、似たようなフレーズが繰り返し出て来る、とカレンはそのうち気が付いた。

ほとんどが開けゴマ、時々、閉じよゴマ。


(ゴマ、って胡麻?)


胡麻以外の"ゴマ"を知らないカレンはそう連想するしかなかったが、胡麻が開くとはどういう状況なのだろうとカレンは首を捻った。

胡麻は莢の中に種ができるので、胡麻の莢が開くのかとも思ったが、子供達が胡麻の収穫を気にするとも思えないし、さらに閉じるの意味が分からなくなる。

しかも、莢が開くとゴーレム又は金銀財宝が現れるという。

チューリップを見てからそれほど経っていないカレンは、まさかまた新種の植物が見つかったのかとちょっと時めきながら、そんなスクープが新聞に載らないはずがないとすぐに期待を引っ込める。

あれかな、子供がよく異彩を放つ、ニックネームとか通称とかそういう種類の名づけかな、と思いながら、カレンは店巡りを続けた。



いつもの食料品店で、塩を1袋測ってもらっているところに、ドアベルが激しく鳴り、店の子が「開けゴマ!」と駆け込んで来た。

すかさず店主の妻で、母たる女将が雷を落とす。


「帰ってきたら『ただいま』だろうが、お客が来てんだよ喧しい!」

「ただいまいらっしゃーい」


子は、慣れた足取りで母の脇を擦り抜け店の奥に消えたが、何やらごすっと鈍い音の後、すぐ戻って来た。

背負っていた鞄を捨てたらしく身軽になった子は、「遊んで来まーす」と、二の句は聞かないよと言わんばかりに、母に引き留められる前に飛び出して行った。

まだベルが揺れているドアに、再び「開けゴマ!」と命じながら自力で開け、母の怒鳴り声はけたたましく打つベルに半ば消された。

立て続けのベルが間近で鳴られるとさすがに鼓膜が痛いが、押さえるわけにもいかず耐えていると、女将が辟易しながら謝罪を述べた。


「あの子はもうホントに……煩くてすいません」

「いえいえ。まあ元気が一番ですから」

「元気過ぎて困っちゃいます、宿題はいつするんだ、っていうね」

「はは……あの、さっきの『開けゴマ!』って学校で流行ってるんですか?ここに来るまで子供達が口々に」


予想の答え合わせがしたくて、カレンに袋を受け取りながら尋ねると、おかみは、「ああ、呪文らしいですよ」と答えた。


「呪文ですか?」

「ええ、盗賊が宝を隠してる洞窟を開ける呪文らしいです。教科書にそういう話が載ってるとか」

「へえ。魔法の勉強じゃなくて、教養なんですか」

「そうそう。何でも外国の話だとかで。皆ちょうどそこをやってるらしく流行って流行って、何を開くにも『開けゴマ!』なんですよ。煩くて」


誰もが同じ言葉を用いてドアを開けられるなど前代未聞であり、呪文と聞いて変だなと思ったが、やはり魔法ではないのかとカレンは納得が行った。

しかし、そんな面白そうな話が教科書に載る時代になったのか、とカレンは感慨を受けながら帰路に就いていた。

カレンが学んでいた頃のスタフィー州では、いわゆる国内の名作が学習の中心にされていた。

それはそれで決して悪くはなかったが、この年齢になり、職人の仕事に就いてみると、イメージを膨らますためには種々の知識に触れておいた方が良かった、と損をした気分になった。

カレンがそう自分を甘やかすたび、別に今から学び直せるだろうという容赦ない鞭が、厳しい自分により脳内に打たれる。

まあ、興味があるので調べ物のついでがあれば図書館で見てみようと、カレンは痛む胸を押さえつつ計画した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ