(9)魔神が棲むランプ②
あれは、要求のペースが半年に1度に落ちてから何度目かのことだった。
こんなに熱心に言われるということは、実は何でもない自分のランプには未来があるのかもしれない、と改良についてちょっと考えてみようかな、と前向きになったことがあった。
経験が浅く信用を十分に獲得できていない職人には注文が入らない。
そういう時期にあったカレンは、停滞を突破するためにとにかく何かをしたがっていた。
どういう改良が必要か、熱くならないようにするとか、マッチがなくとも着くようにするかなどアイディア出しをするのが面白く、それを実現するならどんな『概念の型』が必要かも考え始めて俄然やる気になっていたところに、折悪しく、後で考えると本当に折悪しく"ランプ"の製作依頼が入って来たことが運の尽きだった。
丁寧な依頼文は、"魔神を閉じ込めて使役するためのランプ"を求める内容だった。
内容に興味を持てたが、さまざまな疑問が頭の中に並んでいく。
そもそも魔神とは何なのか
閉じ込める魔神はどこにいるのか
使役とは何をさせるのか
閉じ込めるというのはどういう意味か
その魔神は閉じ込められることに同意しているのか
魔神を外に出すための機能は何が必要か
カレンは依頼の御礼と承諾の返事を書いている途中で、閉じ込めるのは油壺の部分にだろうか、狭くないか、油が上まで入らないのでは、などと窓辺のランプに気を取られて、とにかく不思議な注文だとばかり考えていた。
他国を含めると"ランプ"にはさまざまな種類があるということを、その時のカレンは想像もしなかった。
翌週に届いた返信によると、魔神はこれから確保するがいずれにせよ見せる機会がないため、一旦この国で言う妖精だと思っておいて欲しい。
イメージとしては自由に動ける状態の妖精をランプに鎖で繋いで、普段はランプの中で待機させておくというもの、現実に犬小屋が最も近い。
ランプの外側を擦ると外に呼び出せ、擦った者が下僕として召し使うことができる、ということだった。
カレンは、犬小屋に繋がれ、随時召し使われる妖精を想像し、傾げた首の角度をどんどん大きくしていった。
この国の妖精、と言われても大小も姿もさまざまで、困ったカレンはとりあえずイメージを犬型にして頭の中に据えてみた。
まずランプ型の犬小屋を擦る。
外側と言うから、油壺かホヤかを擦るのだろう。
擦ると、ホヤの上の開口部から、首に長さが可変の鎖が付いた犬の妖精が現れる、と。
使役と言うから、犬の本心はともかくご主人様には従順なのだろう。
呼び出された犬妖精は、ポストから新聞を取ってきたり、落とし物を探したりする。
家畜を追い立てたりする役割を担うこともあるだろう。
もしかすると不審者に噛み付くよう命じられるかもしれない。
不審者ならばまだいいが、あの子供を引き摺って誘拐して来いとか、爆弾を背負って要人に特攻しろとか、従順を強いられているがゆえにそういう犯罪にも意に反して加担させられたりする。
そこまで考えを及ぼして、カレンは、何のためにランプに妖精を繋ぐ必要があるのか、なおのこと分からなくなった。
しかも、先方は閉じ込めると言っている。
同意については言及がなかったが、犬なら言葉が通じないから確めようがないと思っているのならそれは間違っている。
犬だって意思がある、いや妖精の話だったが、妖精だってもちろん意思がある。
ランプに閉じ込められ、ご主人様が用事がある時だけ外に出してもらえる、道具扱いの妖精。
それではまるで奴隷であって、絵的に相当に不健康だとカレンは思わざるを得なかった。
イメージ作りが、製品の仕上がりを大きく左右するカレンにとって想像力を膨らませることは非常に重要だったが、駆け出しの頃は、今よりも豊かに暴走しがちであった。
しかも、依頼に不明点があっても、微に入り細に入り相手に尋ねて良いものかどうか、煩い職人だと不快に思われないかという心配をしすぎて、分からないところは想像力で勝手に補ってしまうという悪い癖もあった。
その上、仕事を選んではいけないという自戒が、今よりも相当に強く効いていた。
このような若さの中で悩んだカレンは、勇気を出して、魔神の拠点、必ず帰る場所をランプに定めるというイメージではどうかという提案を、ランプの形状や意匠での希望を尋ねる問いと抱き合わせて書き送った。
郵便に出してしまってから、お前には頼まないと突き返されたらどうしよう、と日々悶え、気を紛らせるために改良の方のランプで頭をいっぱいにしたりし、かと思えばランプのことは忘れようと台所で魔法をかけるのに使う液の生産に勤しんだりした。




