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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(8)姫が生まれるチューリップ④

博物館とは、これまた文化的な目的地を選んだものだ、とオリバーは何とも言い表し難い心持ちで、カレンを帯同した。

国立博物館は建造年が200年を超える文化財であり、同じく国立の美術館や図書館が併設された一帯として、周辺の緑地や街並みを含めて景観が良好な地域にとなっていた。

黄金比を取り入れた本館のファサード、正面部の重厚な様式や、その前にある鏡のような池から突如して水が、リズムを持って吹き上がるのをカレンが珍しそうに眺めていて、オリバーの目論みと噛み合ったは噛み合った。

数時間ではとても回りきれない規模を有し、馬車までの時間は、昼食や駅への移動などあれこれ見積もると、滞在可能なのは正味3時間と言ったところだったが、カレンは常設展示には目もくれず、特別展示という案内に従ってその受付へと直行した。


『姫が目覚めるチューリップ ― 妖精を育む魔法の植物達』と銘打たれたこの展示は、先日、国内で発見された新種の植物とそれに関連する諸情報とを、企画室一室に展示する、国立博物館としてはこじんまりした企画であった。

植物というより、チューリップの花を苗床にする妖精類の発見に関する展示というのが正しく、その実物が今回の目玉と謳われていた。

展示解説によると、その希少なチューリップは大麦の種から育ち、開花すると、花弁の中で、子供の指ほどの背丈しかない妖精が目を覚ますという非常に希少な魔法生物ということだった。

他国では、桃や瓜などの果実での事例は散見されるが、花は伝承のみで今まで実物の発見例がなく、歴史的発見であるということは新聞にも載ったため、新聞購読層には届いている情報ではあった。



館内では別の特別展示、『湖の乙女が与えしもの』、という企画名で剣や斧など国宝類が同時公開されており、客足はほとんどがそちらに向いているようだった。

こちらの展示室には、せっかく来たのだからついでに覗くという客の方が多いように思われ、一室分の展示量をちらっと見て出ていく、というスムーズな人の流れができていた。

カレンのように、ガラスに貼りつくようにして、綻んだ花の中で欠伸をしている妖精を凝視している者はいない。

オリバーが他の資料や説明を隈なく見て、室内を一周してもカレンはまだ同じところに立ち尽くしている。


(それにしても、随分と熱心に見るものなのですね)


オリバーは、手持ち無沙汰に中央部に置かれたソファに座り、カレンの背中を眺めた。

魔法でのものづくりが可能なのは、その名のとおり無生物だけ、生物を生成するような道具、生成と言うのが適切かはともかく、そういう魔法は、もちろん彼女を含めて今のところ誰にも手の届かないところにある。

時が進めば、不可能を可能にする鬼才が現れるかもしれないが、いくら知恵と努力とが備わっていても、少なくともカレンがそういう一線を踏み越える存在にはなれないだろう。

だとしても、魔法を扱う職人としては気になるらしい、どういう理論、仕組みであのような生物が存在し得るのかということを。

こういう機会でないと見られない実物をじっくり観察し、何かしらの閃きを得たい、彼女の背中からそういう熱意が立ち上っていた。

彼女はイメージを膨らませ、『概念の型』というのを作って魔法をかけると聞いている。

オリバーはそれを実際に見たことがなかったが、同じような質の集中を、仕事の時にも発揮しているのだろうと思わせる熱心さだった。

気晴らしになれば、と思って連れて来たのだが、気晴らしにはなっていないな、とオリバーは苦笑いする。

あれでは、気晴らしの間も仕事をしているようなものだ。

それにしても、出会った時から、そして今もまだ十分に華やかなる年頃であるのに、とにかく全てが仕事に関わる学びに集約し、魔法の研鑽一筋な子だという印象は全くずれて来なかった。

オリバーは、呆れ混じりに微笑みながら、煎じて息子に飲ませたいからと爪の垢が欲しいと頼んでみたら、さぞ狼狽えるだろうなと呑気に考えながら、彼女の気が済むまで待つことにした。


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