(8)姫が生まれるチューリップ②
数時間は部屋でじりじりと待ったが、無事に朝食にありついて人心地が着くと、カレンはホテルをチェックアウトして、仲介人との待ち合わせ場所に向かった。
首都ビゼーリは、現在出勤や通学時間帯の最後と、ショッピング等散策の出だしが重なっているようで、午前のこの時間帯のバーミアにはない人出と喧騒に溢れていた。
それに加えて、知らない土地であるため歩きづらいことこの上ない。
事前にアポイントを取った際に送られてきたメモ上の地図を見つつ、時に人にぶつかりそうになりながら右往左往して、目的のカフェに辿り着く頃には、体力はもちろん気力が3割ほど削ぎ落されていた。
店名は合っている、と2度確認し、バーミアではまず見られない瀟洒なカフェに怖々入っていくと、カフスの折り目正しいウェイターが早速、「待ち合わせでいらっしゃいますか」と声をかけてきた。
どうして分かるのかと戸惑いながら、「ゴールドバーグという方はいらしていますか」と伝えると、心得ていたらしいウェイターに、さっそくテーブルまで導かれた。
店の外とは対照的にカフェ内はそれほど混んではおらず、奥まった座席から、カレンが見覚えのある、灰色の髪を崩れなく撫でつけた、身なりのいい熟年の紳士が振り向いて居場所を知らせてくれた。
「お久しぶりです、ご無沙汰しております」
とカレンが挨拶をしながら向かい側に座ると、紳士は「こちらこそ。お元気そうで何よりです」と柔和に微笑んだ。
この紳士、オリバー・ゴールドバーグは、ビゼーリを拠点とし、顧客と職人との間を取り持つ仲介を専らに行っている個人事業者であった。
職人の仲介を含めた代理業務を広く行う、ピオネル社のような代理店と異なり、狭く深くをモットーに人脈を築き、癖の強い注文は彼に頼むもの、と慣用句的に語られるほどの評判を得ていた。
そのようなベテランの彼は、職人についてもベテランを非常に大切にするが、若い有望株を探すことも常に怠らない人間だった。
カレンのことも、彼女がそれほど経験を積んでいない時分に噂を聞き、話をしやすい顧客に頼み、彼女に製作依頼を入れてみたことでその腕を知った。
ほとんどが眉唾物の噂の中に、時折玉の原石が見つかる。
その原石が経験で磨かれていくのを見るのが、オリバーが感じるやりがいの1つであった。
「ビゼーリには、昨日いらしたのでしたっけ」
「そうなんです。滅多にないんですが、調整でお客さんに呼ばれまして……」
「おや、手紙で済まなかったんですね、珍しい」
「……それが、手紙という選択肢を選ばせてもらえなくてですね」
「それはまた、随分力の入った方を相手にしていますな」




