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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(7)白ウサギの扇子⑤

何が何やらと戸惑っているカレンに、笑う間からレオンが絶え絶えに問いを発した。


「ちなみに、何でよりにもよって、じいさんの設定に、したんですか」

「いや、その方が成功したかどうか判別しやすくて……と思ったんですけど……」

「なるほど、いや失礼、失礼しました」


自信があるのかないのかどっちなんだ、とレオンは感心半分呆れ半分で呼吸を整える。

魔法のものづくりは素人であるレオンにも、提案内容は、対応策として現時点での最善であると思わせる力があった。

似たものを手掛けた経験があるとはいえ、それと今回の件をよく一瞬で結びつけるものだ。

しかも、ミス・アスターは外見からすると30代、その年代の女性が、自分の腕が、異性の萎びた見た目になるやり方を敢えて選択して、正確な検証を優先するだけでなく、提案を補強するために、その劣化した腕を他人に見せて憚ることがない。

こういう、技術はもちろんのこと、職人の強い我が、他のどこでもない、ものづくり行為の中に全て埋没しているようなのが、この町では造形屋って呼ばれてんのかね、とかつて喫茶室で教わった通称を思い出す。

にもかかわらず、言うだけ言っておいて、今更になって悄然としているのは随分な落差だった。

職人としての性分が、思い付いた解決策を立て板に水のように喋らせたが、ものではなく人が相手だと、最後まで我が保たないらしい。


国中を走り回ることも珍しくないレオンだったが、いろいろなところに、いろいろな奴がいるもんだと思わせる場面に出会う場合、間違いなくその案件は成功に至る。

レオンは、「ご提案ありがとうございます。元請けを通じて、必ず先方に伝えます」と折り目正しく頭を下げた。

あ、はい、とたどたどしく下げ返したカレンに、再度の笑いを何とか抑えながら付け加える。


「ただ、あまり期待せんでください、こだわりが強い連中なんで」

「あの、はい、それはもちろんそうだと思いますので、参考程度になさってください。関係している方が多すぎて調整、できなそうですしね……」


確かにカレンの言う通り、調整は困難を極めるだろう。

しかし、方向転換を図らない限り興業自体が潰れるとなれば、関係者は躍起になって実施させる方に舵を切るだろう。

息の根を止めずに済むなら断然その方がいいし、そうなってくれないとピオネル社としても困る、とレオンは利益の確保も忘れてはいない。

舞台が無事に開幕させるための下準備までが、下請けに課せられたミッションだ。

とにかく案件を走り出させて、食い扶持を確保するために、レオンはできる限りの努力をしなければならない。

辞去しようとしたところで、そうだ大事なことを忘れていた、とレオンは見送るカレンを振り返る。

原案では、食品については別な職人に打診がされていたが、カレン案が採用されれば、関連発注はカレンに集中することになる。

他に同様の魔法がかけられる職人を探すよりは、その方が明らかに手っ取り早いからだ。


「それから、貴方が提案してくださったことですからね。もしGOサインが出たら、スケジュールを動かす覚悟はしといてくださいよ」


打ち合わせだの何だので大変になるぞ、とおどけ交じりで言ったつもりが、カレンは、あまりピンと来ていないようで、曖昧に「ああ、はい」と頷いたきりだった。




出しゃばりだっただろうか。

カレンは、受注予定・身体を大小する布と書き込んだメモを、机正面の額縁の下に貼りながら考えた。


注文に対し、それはできないがこれならできる、という提案は何度もしたことがあったが、企画自体に待ったをかける類のものは初めてだった。

頼んだことはやらずに口だけ出すなんて、と蔑まれたりするかもしれない、と嫌な気持ちになった。

でも仕方ない、一度話してしまったことを、もうなかったことにできない。

後悔しても時は巻き戻らない、話した以上、何が起こっても責任は取らなければならない。

作ってしまった鏡と同じかな、とカレンはふと思った。

依頼主の手に渡ったあの鏡が、今どこでどうなっているのかもはや知る由もないが、鏡を作ったこともまた、なかったことにはできない。

その場ではとりあえず誰も困らなくても、作ったものが誰かを困らせる未来がいずれ来るだろう。

その時に、どう責任を取るか考え続けなければ。

それは誰かに蔑まれるよりもずっと長くきついことだ、とカレンは胸を押さえた。



それにしても、布が成果品となれば、またエマに世話にならなければならないが、どの段階で頼めばいいのだろうと悩む。

提案はしたが、もちろん仕様はまだ固まらず、時期も数量も、そもそも発注がされるかも不明瞭で、さすがにエマを困らせるだろう。

カレンとしても、エマに何と説明していいか分からない。

普通なら、菓子など持参して雑談がてら、こういう話が今あって、と軽く前振りをすれば済むとこどだが、カレンは年齢と経験の割にはそういう器用さが身に付いておらず、多忙なエマに時間を割かせるのは迷惑だという思考から脱出できないでいた。


(まだ、いいかな)


その場はそう判断したカレンが、自分の提案をちょっと、いや大分後悔したのは、ピオネル社から、カレンの提案が通ったことと、種々の細かい注文と納期とが書かれた長々としたリスト、それから詳細の調整で首都までご足労願いたい旨が書き送られてきた段階で、だった。


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