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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(7)白ウサギの扇子④

レオンの申し出は渡りに船だった。

実は私も同じ懸念があります、なので辞退させていただきたいです、そう宣言してしまえば、この場は綺麗に収まる。

カレンは気に染まない依頼を受けなくて済むし、レオンの話が本当なら、断っても迷惑をかけることはない。


だが、今回は逃れることができても、それは与えられた幸運に縋っただけで、鏡の件は帳消しにはならない、そう咎める声が後ろ髪を引く。

それに舞台が中止になれば、関わる多くの人が失意に陥ることになる。

レオンも今、実現は望んでいると言った。


カレンはスカートをぎゅっと握った。

私はどうすべきだろうと、ぐっと思考を巡らせる。

鏡によって悪意を見せられた人に詫びるために、職人の看板を下ろすのか。

それだけは嫌だ、開き直りとそしられようと、それは絶対にできない。

ならば罪滅ぼしに考えろ、舞台を成功させられる手段を、過去の経験を掻き回して探せ。

要するに、観劇している者の目に、役者が大きく・小さく見えればいいのだろう。

それなら、人の身体は一切変化させず、見え方だけを変えられれば同じ効果になる。

全く同じ道具は作ったことはない。

何か今まで手がけた仕事で、応用できるものはないか。


カレンが考えに考えていると、その中に、1つ手がかりを見い出す。

これは使えないか、と思い付いた手がかりに、培った知識が次々に補強を施していき、これなら使えるかも、という1くくりのアイディアとして姿を現す。

受注側が、注文品の範疇を超え、計画全体が方向転換になるような提案をするのは本来は厚かましいことだ。

しかし、怖気づいている場面ではない。

身の程を弁えない案だと却下されて当然、せっかくの興業を殺さず、舞台を成功させる方向へと動かすため、言うだけ言うのが、一旦頼まれた者の責任だ。

カレンは勇気を奮って顔を上げた。


「あの。一応ご提案だけさせていただきたいのですが、良いでしょうか」


気圧されたレオンが、ええ、はい、とたどたどしく答えると、承諾を得たカレンは立って作業部屋へ急ぎ、積み上げていた紙箱の重なりの間から、平たい箱を1つ引き抜いた。

崩れる音を無視してリビングへ戻ると、怪訝なレオンの前でそれを開いて、シフォン生地のようだが織りっぱなしの、50センチほどの布を取り出す。

そして、レオンにこれは何かと問われる前に、


「これ、私が前に試作した布なんですけど。ちょっと見ててください」


カレンは、その透け感のある生成りの布を、自分の左腕に被せた。

すると布を通して見たその左腕は、女のものから、明らかに男性の、皺の多い老人のものへと変化したのだ。


「な、んですかこれ、老化させる布!?」

「見た目だけです。外すと戻ります」


目を剥いて慌てたレオンに、カレンは布を引き取って、腕自体には何ともないことを証明してみせた。


この布は、エマから教わった過去の詐欺事件をもとに試作したものだった。

事件の内容は、大陸の中央部、王を頂いている国で、国王相手に魔法の布を織れる職人だと騙り、莫大な金銭を引き出して逃げたというものだった。

何でも、詐欺師2人は、非常に美しい色合いをしているが、愚者には存在自体を視認できないという布だと触れ込み、自尊心の高い王は、見えないとは決して言わないだろうと策略して、大胆にも、織り機に糸を渡すところから、王に完成した服を着せるところまで演技をやり遂げたらしい。

驚くことに、王がその"服"を着て街をパレードしても、子供1人を除いては、家来も国民も、愚者の烙印を押されないよう服が見えるふりをし続けたということだった。

相当に昔の話であり、今ではそんな集団浅慮はなかなか起こらないだろうが、織り師界隈では、業種の信頼を損ねた事例として、戒めのため語り継がれているそうだ。


人によって見えたり見えなかったりする織物というのは、当然実際には作られなかったが、カレンは発想としては新しいなと感心した。

愚者かどうかというのは、他人の内心を土台にした評価であり、そういう基準で見え方を切り替えることは不可能だし、仮にできるとしても実行すべきではない。

だが、もっと他の客観的な基準、例えば着けている自分以外には別な見え方をするという仕掛けなら、魔法で可能なのではないか、そう思い、糸を弄って少々研究をした。

エマに頼み込んで試しに織ってもらった布は、カレンの想定通りの効果を発し、アンタどういう発想してるんだいと呆れられた。

まだそれほど仕事が立て込まず、暇があった時分のことだ。



レオンが恐る恐る口を開く。


「これって……俺でも同じ効果は出ますか」

「出ます。試しにどうぞ」


差し出した手に布がかけられると、男の手であることは変わらなかったが、同じように相当に加齢が進んだ手指が布から透けた。

腕を凝視するレオンに、カレンが主意を説明する。


「これを応用して、シーツのように頭から被れば、体を小さくする扇子を作らなくても、観客に縮んだように見せられると思います。

大きく見える方がどこまでできるかは、ちょっとやってみないと分かりませんが……あと、あくまで見えているだけなので、もちろん実際に背の低いドアを潜ったりはできません。細かい点の変更はどうしても避けられないと……すみません、出過ぎた真似をしました」


勇んで言い始めておきながら、最後は尻すぼみになっていく。

レオンはあくまで下請けで、カレンが白ウサギの扇子を製作できるか聴取するのがミッションであって、舞台自体の方針転換を検討できるとすればその上の上だ。

レオンに訴えても無理難題が極まり、ただ迷惑をかけることにしかならない、と今更気が付いたカレンが羞恥と後悔を抱えて縮こまっていると、目の前のレオンが突然吹き出した。


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