(7)白ウサギの扇子③
「ちなみに今回の扇子は、技術的にはできるものなんですか」
カレンは、カップのハンドルを指でなぞりながら、答えにくそうに「そうですね、可能だと思います」と呟いた。
「うわ、やっぱりできるんですね。すごいな、扇ぐと縮んでくってことは、どの段階かで扇より小さくなります?」
「いえ、そうなっちゃうと危ないので、魔法で大きくなっちゃった分までしか縮められないように調整をかける感じです」
「ああ、それが調整ですか」
レオンは感心を表したつもりだったが、カレンは「いえ、まあ、その……はい」と口ごもった。
どうやら、調整はそれではないらしい。
じゃあ何だ、と思案したレオンは、ふと思い付いた候補を口に出してみた。
「もしかして抵抗がありますか。今回の依頼」
「いえ、そんなことは」
ここでもか、とレオンは内心で悪態を吐いた。
不運なことに、当たりを引いてしまったようだ。
ピオネル社は、仲介実績があったため、カレンへの交渉を専ら任されたが、他の大道具小道具についても、リストから職人を割り振られ、依頼行脚するよう指示を受けていた。
しかし、その結果は全く芳しくない。
苦戦を重ねるうち、レオンはこの案件にはもはや未来がないと疑うようになっていた。
レオンだけでなく、他の下請けも同様で、例によって、元請けは職人の掻き集めに躍起になっているが、下請け間では、取り繕うのはもはや無理だという認識が水面下で共有されていた。
正直、駆けずり回って骨折り損になるのなら、早いうちに息の根を止めてしまった方がいい。
レオンは「アスターさん。これは独り言なんですが」と切り出した。
「実は今、扇子以外のモンも、俺達下請けがいろんな職人に頼んで回ってるんですが、結構断られてるんですよね」
カレンは「そう、なんですか?」と、戸惑いと少しの驚きとともに顔を上げた。
「ええ。まあ釣れない釣れない。何でだと思います?」
「ええと……」
「自分が作ったもので、人間をでかくしたり縮めたりするのに抵抗があるからだそうです。……もしかしなくてもアスターさんも同じですか」
はっとして表情を硬くしたカレンは、空なのに持ち続けていたカップに気がつき、慌ててテーブルに戻した。
予想が正しかったことが証明され、レオンは溜め息を吐く。
あくまでピオネル社が足を運んだ範囲での情報だが、職人達の言い方は個性があるものの、異口同音だった。
"作ろうと思えば作れるがやりたくない"
責任を取る取らない、ということよりも、人の身体を変えてしまうということが、倫理にぶつかるということを、ある者は気難く、ある者は毅然として拒絶を伝えて来た。
レオンは職人達の言うことに賛成だった。
レオンは舞台や劇というものに親しくはないが、それらの一番の目玉は役者の演技にあるべきではないかという考えを持っていた。
道具にも、物語の忠実な再現を求めるのは結構だが、それにも限度があって当然であって、この状況下で興業を成立させたいのなら、魔法で役者の身体を膨らますとかいう演出を捨てて早々に方向転換を図るべきだと、自分の食い扶持を確保するという意味でも強く思っていた。
カレンが、躊躇いがちに口を開いた。
「あの、もし職人が集まらなかったら、どうなるんでしょう」
職人というものは誰でも我が強かったが、この人は我をどこへやってしまったのか、頼まれたら断れないタイプかとレオンは検討付けながら答えた。
「最悪は舞台自体中止でしょうね。主催者が方針転換しない限り」
「……そうですか」
「金も手間もかかってるので、実現して欲しいところではあるんですけど、無理でしょうね。正直、ここまで断られたら興業として成立しないレベルの人数に断られてまして。なので、アスターさんもはっきり言ってくださると助かります」




