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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(7)白ウサギの扇子①

カレンは、ピオネル社からの、アポイント取得の手紙を読んでいた。

差出人は社主名になっており、再度依頼を受けていただきたい、ついては詳細を説明したいので、時間を取ってもらいたいという何の変哲もない正式書簡であった。

依頼内容への言及はなく、引き受けが決まっていない相手のもとに、紙で残ってしまうのはまずいという判断なのだろう。

手紙の下段に、ご指定の日時に、レオンを向かわせる、と綴られてあった。

今回は1人だけか、と前回ずっと腰を気にしていたスタンリーを思い浮かべる。

とうとう長距離移動もできなくなったのかな、とカレンよりも年若い彼に同情する。

レオンの方も、玉手箱の件で顔見知りになったからだろうが、遠いと嘆いていた彼がバーミア係にされているのはちょっと気の毒だった。

今度はどんな大物の案件に振り回されているのだろう、とカレンは苦笑いしながら、候補の日時の返信に書き記した。




「舞台、ですか?」

「ええ。その小道具をお願いしたいんです」


翌週、指定通りにやってきた、ちょっと草臥れた感のあるレオンを迎え入れた。

お1人なんですね、とさりげなく聞くと、「スタンリーは教育的指導中でして」と謎の回答が返って来た。

首を傾げながら、カレンは依頼の内容を尋ねた。

レオンは、他言無用と注意を与えてから話し始めた。


まだ公表にはなっていないが、少女が主人公の有名な童話を題材にした舞台を、首都を始めとした主要都市で公演するという企画が進行している。

主催者は国営の、国内で最も実績ある劇団のうちの1つであり、後援には種々の分野の有力会社が名を連ねる大規模な興業である。

他国の国賓を招いて観劇させることも検討されているそうで、国から大いなる期待が寄せられており、完成度が高いものに仕上がるよう、劇団の力の入れようは並々ならぬものがあるという。

そのため、演技は言うまでもないが、舞台装置や大道具小道具に至るまで、童話から取り出したそのままのようなクオリティを、彼らは求めていた。


落とし穴の中に並ぶ戸棚本棚

壁に留められた地図と絵

マーマレードの空き瓶

大広間に下がるたくさんのランプ

小さなドア

白ヤギの手袋

ヤマネを押し込むティーポット

白いバラを誤魔化す赤いペンキ


題材の童話は、可愛さと不思議を象徴する道具を数多く蓄えているが、クオリティとは見た目だけが言われてるのではない。

作中で、魔法がかかっていると思われるアイテムがいくつも出て来るのだが、それを実際に魔法で再現しようと試みているのだという。

そのため今回も、劇団から委託を受けた元請けが采配を振るって、職人達に声がけをするべく国中を飛び回っている、というのがレオンの余談だった。


赤い靴のように大量生産狙いを求めるのではなく、必要なものを1つずつ丁寧に職人に頼むというやり方をすれば、この前のような事故は起こらないだろう。

この依頼の問題はそこではなかった。


レオンが内部資料らしい紙束を確認しながら提示した依頼は、『白ウサギの扇子』の製作だった。


「白ウサギの扇子……」

「はい。でかくなってしまった主人公が扇ぐたびに身体を縮ませるやつですね。どういう仕組みなんだか」


カレンは微かに眉を寄せた。

この童話には、主人公が身体を伸ばしたり縮めたりするシーンが何度も出て来る。

その原因になるもののほとんどが、飲み物や焼き菓子などの食品で、口に入れることで伸縮が生じた。

食品ではなく、唯一道具として登場するのが白ウサギの扇子で、レオンの説明通り、一扇ぎごとに身体が縮む効果を持つ。

カレンは食品や薬品は専門ではないことから、扇子の打診が来たということは推測ができた。


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