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おとぎ話の造形屋  作者: 蜂須賀漆


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(5)真実を告げる鏡⑤

そしてカレンが選んだ対応策は、


「あーもう後回し!」


カレンは頭の中の天秤を薙ぎ払い、依頼文を机上に放り、その上に引き出しから出した本をどさっと乗せてがばっと開いた。

いずれにせよ、この注文にはまだ着手できない。

先の鏡をきちんと作り上げるために、この不穏な注文のことを心から完璧に追い出す必要がある。

高度の集中に不可欠なのは無心だ。

鶏が先か卵が先か、カレンは一旦考えるのを止めるために、第一の鏡のイメージ作りに手を着けた。

第一の鏡も、材料が揃わないので、まだ鍋での作業には入れないが、気が進まないものほど短期決戦にした方が捗る、それがカレンの経験則でもあった。

正直、できるものなら『概念の型』を早々に仕上げて、不満を押し出してしまいたいというのもあった。


・鏡面は決して曇ることなく、相対するものを全て映して逃すことがない

・その銀の泉に問いかければ、両目を包帯で覆った見知らぬ女、生真面目な女、主に迎合することのない女が朧に現れる

・女は、主に答えるために、鏡の所在地とどこか他の場所、そして現在あるいは過去の時点との間を糸で繋ぎ、答えの土台になるべき事実を手繰り寄せる

・額縁は、豊穣と知恵の女神デメロスの胸像を頂上に、そこから蔓を降ろして、葉の陰に葡萄や柘榴や豆の莢などを、大理石に掘り出し、金をぶちまけてある


間違えた、ぶちまけるじゃない、とカレンは慌てて別な言葉を考える。

作り手のやるせなさにイメージが引っ張られてどうする、と反省もする。

一応、鏡本体にも装飾にも、神話に着想を借りるなどしたので、『型』だけ見ればそれなりにできた。

鏡に住まわせた精と女神デメロスとが、決して邪な使い方をされないようにくれぐれも監視して欲しい、という祈りも込めておいた。

鍋の段階で必要性への疑問をうっかり混ぜなければ、きちんとでき上がるだろう。

むしろ成功の鍵はそこなので、作業の際は厳重に注意する必要がある。


カレンは、鏡から酷評された依頼主が、鏡を割ったりしませんように、と切に願いながら、金を化粧として施す、と書き換えた内容で清書をした。

そうして、第一の鏡の当面の作業を終えてしまうと、本を持ち上げ、潰してぺたんこにしていた第二の鏡の依頼を睨んだ。

しがらみから抜け出せない今のカレンには、自分の声に従い、勇気を持って「お断り!」と突き返すことができない。

突き返せないなら、悔しいが未熟さの代償として、依頼の趣旨に反せず、かつ物自体が悪意持つ道具とはならないよう、全力で回避する知恵を絞り出すしかない。

物自体には決して罪がないと言えるほどには、作り手の責任を持って代案を磨いて磨いて、磨き抜くしかない。

そこまでして、もしこの代案が不可と言われれば堂々と断れる。

職人ができない、と断るのは正直恥ずべきことだったが、今回に限ってはそうは言っていられない、とカレンは代案の細部を考え始めた。


こういう、断りたくても断れない場合、他の職人さんはどうしてるんだろう。

孤独なカレンは、とっぷりと暮れた外にも気づかないまま、うんうん唸る合間にそんなことをぼんやりと考えた。


こんな生活だから、たとえ魔法使いに魅力を感じたとしても、その希望が現実として立ち上がる機会は、近々には訪れそうもなかった。


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